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青に染まる by あおいはる

ジャンル

長さ

  • 掌編
  • 845 文字
  • 2 分ぐらいで読める

あらすじ

 まよなか、ぼくは青い夢を見る。青い絵の具を溶かした水の中にいて、となりにいる人はがぶがぶお酒をのみ、何かをさけび、うめいている。ぼくは、青い海の底で、青いワンピースをきた女の子と、青いソーダをのんで、ブルーハワイ味のかき氷を、たべている。青に染まる
(一部を作品より引用)

レビュー(ネタばれ注意)

 ファンタジックで抽象的な作品をお書きになること(と筆が速いこと?)が特徴の、あおいはるさんの作品3つ目のレビュー。私の判断で詩に分類させていただいたが、著者の申告では掌編小説になっていることを述べておく。
 同著者による『アイスキャンディを売り歩くペンギンの団体』、『うまれる』のレビューもよろしく。

 さて、「青い夢をみる」という冒頭の言葉に表されるとおり、この作品では青い夢をテーマにしている。私にとっての本作一番の見所となったのは、その夢の美しい情景だ。「青い夢」という言葉だけで何かもうきれいな感じがする。さらに

青い絵の具を溶かした、水のなかにいる。
 海のなかを、さまよっている。
 皮膚のすきまから、青が侵入してくる。からだじゅうにいきわたる、浸透する、感覚は、心地よく、それでいて、ちょっとだけ、こわい。

 青い夢のなかで、ぼくは、青い海の底で、青いワンピースをきた女の子と、青いソーダをのんで、ブルーハワイ味(といいながら、その実態はいちごやレモンとおなじ味という)のかき氷を、たべている。

というような、青を徹底的に強調する独特で詩的な描写が、一層幻想的な世界観をかもしている。青い海の底にいるという表現が特に好きだ。

 しかし、ここで特筆しておきたいのは、途中で2回登場する「オレンジジュース」の存在である。私はこの短い作品を何度か読み返した。はじめに目を通して頭の中が青でいっぱいになった後でもう一度これを読んだ時、その青いイメージの中に鮮やかなオレンジ色の印象が浮かんで来て、その感覚がとてもよかった。こんなに鮮やかな色彩を意識させる作品はあまり多くはないと思う。

 言葉づかいも感じがいい。たとえば、
からだのなかが、あおに満たされてゆく。気がする。
 という箇所は、絶妙な歯切れの悪さがあっておもしろかった。また、作品の一番最後にくる「染まる。」という3文字しかない極端に短い段落もとても印象的だった。いずれにしても、話の筋だけでなくイメージや語感などでも勝負する作品だと言える。

 確かな根拠はないけど、本作の青の色は青春を表しているのだと私は推測している。著者の名前も「あおいはる」さんだし、漢字で書いたら「青い春」になる。主人公は17歳の少年だ。もっとも、前の作品のレビューでも言ったとおり、話に明確な解釈をつけるのは著者の意図から外れる気がしないでもないが。

 ともかく、青春を感じさせる話の中で異質なのは、酔っぱらってうじゃうじゃ言っているおっさんだ(おばさんである可能性もある)。歳は示されていないが、主人公が未成年であるために酒ではなくジュースを飲んでいることを仄めかす描写があるので、多分酔っ払いの方は大人だろう。美しい情景のなかで、がぶがぶ酒を飲んで叫んだり、うめいたりしている様はいかにも不釣り合いではないか。

 夢の中の話でもあるし、この人が何者なのかということも結局読者の想像に任されている。そこで私は、この酔っ払いが主人公の少年自身であると考えることにした。現実の暮らしでは嫌なことが多くて酒に飲まれているおじさんが、青くてきれいな水の中にいる青春の夢を見ているのだ。そう考えると、

となりにいるひとは、はて、どちらさまだったかな。

という一文もちょっと皮肉がきいて、深い含みのある表現であるように思える。

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