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ばあちゃんのタトゥー by 奥田徹

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あらすじ

 夏休みにばあちゃんの家を訪れた私は、洗濯物を干す彼女の腕にタトゥーを見つける。若い頃、不良だった最初の彼氏とおそろいでに入れたが、その後別れたという。さばけた人柄のばあちゃんに高校を辞めたいことを話すと、「良いも悪いも色々だ」と言いながら中退経験者としての感想をきかせてくれる。それで気持ちが晴れた私は、一度断った両親との海水浴に合流するため海辺へ向かった。

レビュー(ネタばれ注意)

 こんなかっこいいばあちゃん、見たことない! という内容の純文学掌編。ハードボイルドっぽい感じもある。

 ヒロインの私は自分のばあちゃんを「よくいる感じの六十代のおばさん」と表現している。だが、こんなハードボイルドなばあさんが、そこらへんをうろうろしているはずはない。60代のおばさんがタトゥーをしているだけでも珍しいが、このタトゥーにまつわるエピソードがまたおもしろい。彼女がまだ若くて、世の中の景気がよかったときに不良だった彼氏と一緒に入れたが、結局別れたという。「かっこいいじゃん」という私に対し

かっこよくはないぞ。これ、最初の彼氏が不良で、なんか流れでいれただけだからな。二人揃って。結局別れたんだから先のことを考えられないってのは馬鹿だった証拠だ

 と、ばあちゃんは答える。てらいのない返答が実にしぶい。その彼氏と別れたあと、ヒロインの祖父にあたる「じいちゃん」にナンパされて結婚し、やっぱりまた別れたという。そのことについては
まあ、でもそんでお前がいるし、良いも悪いも色々だろ
 とコメントしている。さっぱりした人柄なのだ。
 それから私は高校を辞めたいという話を切り出す。通常のばあちゃんであれば孫の退学を思いとどまらせようとするだろうが、このばあちゃんは「さあな」と答え、またもや「どっちにしても、良いも悪いも色々だ」と言う。そして思いがけず経験談を聞かせてくれる。何とばあちゃんも学校を中退していたのだ。話の中身は次のとおり。

ちょっとめんどくさかった。働いても、安い雑用多いしな。夜学に入りなおしたけど、それもめんどくさかったし。でもまあ、いつだって深刻なわけじゃねぇ。だから、良いも悪いもだ

 学校も面倒くさいがやめるのも同じように面倒くさい。しかし、いずれにしても大きな問題ではない。ということだ。すごく的確なアドバイスだと思う。それで、くさくさしていた私は気が晴れて

ちょっとばあちゃん好きかもって思った。

 と自分の気持ちを表現する。ばあちゃんへの好意とかわいらしさにあふれた一文が最高にいい。

 それからヒロインは、一度は誘いを断った両親の海水浴に合流し、父の荷物の番をかわってやる。父は喜んで母の所へ駆け寄り、母も「ありがとねー」と私に手をふる。
 悩みはあっても深刻にならず、何だかんだで家族仲もいい。この小説みたいな人生が送りたい。

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