積まれた本

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でぃんぐ どんぐ by 午前深夜

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あらすじ

 俺が目を覚ますと、部屋の床が真っ青なプラレールに埋めつくされていた。自分に構ってくれないことをすねた妹のしわざだ。プラレールを無視して部屋を出ようとする俺を妹は必死で妨害する。
いいのかな?
お兄ちゃんがプラレールを外したら、この電車は脱線しちゃうよ? 乗客の人が大変…だよ?
(一部を作品より引用)

レビュー(ネタばれ注意)

 兄に構ってもらいたい妹が部屋の床にプラレール(※)を敷きつめるという、奇想天外なショートショート。敷きつめる面積を京間の5畳と仮定すると、おおまかに言って1067本のレールが必要であり、その費用だけで16万8千4円になる。壮大ないたずらだ。
(※プラレールは株式会社タカラトミーが販売するおもちゃ。青いプラスチックのレールをつなげて線路を作り、乾電池で動く電車を走らせて遊ぶ。)

 構ってもらいたいにしても、なぜこんなことをするのかといぶかった兄は
普通に遊びに誘ってくれればいいだろ?
 と妹にたずねる。すると彼女は
言えば遊んでくれたの?嘘だよ…。今日だって日曜なのに、研究だとか言って大学に行くつもりでしょ?
 と答える。つまり、普通に遊んでくれと頼んでも相手にされないから、兄を部屋に閉じ込めるためにプラレールを敷きつめたのだった。これには思わず納得……できないな、やっぱり。

 結局プラレールを踏み越えて行こうとする兄に、妹は忠告する。

「あはは!…出来るかなァ?」

「なんだと?」

「スリッパもない素足の状態で!プラレールの上を歩くぅ?
痛いよぉーぅ?絶対やめた方がいいよぉー??」

策士め…!!

 素足で歩いたって大丈夫に決まっているが、この馬鹿馬鹿しさがいい。それから、踏んで行くことをあきらめた兄はプラレールを分解しようとするが、またもや妹が忠告する。

「い い の か な ?」

「何がだ?」

「お兄ちゃんがプラレールを外したら、この電車は脱線しちゃうよ?
乗客の人が大変…だよ?」

 そして、この後の妹のやり方が面白い。兄の良心に訴えるため、乗客の身の上を創作して細かく語り始めるのだ。少し長いけど引用する。

 
…操縦手は良守敬一、小さい頃から電車の運転手になるのが夢で、今日はやっと念願の夢が叶い初運行。

乗客の鈴本恵子、結婚し六年。もともと子供が出来にくい体質であったが、このたびめでたく懐妊。里帰りのためこの電車を利用する。

乗客の遠山健三。見に覚えのない借金からタコ部屋生活を強要され、遂には脱走。辛い思い出ばかりの故郷を捨て、先行きの目処はないが新天地を夢見るその顔は晴れやかだ。

乗客の伊東太郎。何でも願いが叶うという伝説の宝珠。
それを巡って繰り広げられる格闘大会に参加するため電車に乗り込む。宝珠には興味がない。彼の目的は、天獄点厳流こそ最強と天下に知らしめること!

乗客の藤巻サキ。遅刻しそうだったからダッシュで乗車。(駆け込み乗車はおやめください)。
もともと汗っかきで走ったものだから濡れ透け…ゴクリ。

乗客の……

「タコ部屋」の所に笑ってしまった。タコ部屋っていつの時代の話やねんと思うし、そんな話題を持ち出す妹も何なんだと思う。妹が最後にあげる藤巻サキのくだりも、兄の説得には役立ちそうもない話だ。
 とにかく、こうして妹の術中に落ち入った兄は
やり方が汚ないぞ!
 と訴える。妹にも自覚があるらしく、
お兄ちゃんごめんね。ごめんね…
 と泣いて謝る。謝るくせに、段ボールから次々と電車を取り出してレールの上を走らせ始める。すがすがしいほどの言動不一致だ。

 最終的に、兄は妹の思いどおりになってしまう。

結局、この日は大学に行くのを諦め、
一日中妹とプラレールで遊ぶことになってしまった。

楽しかった。

とのことだ。よかったやん。

 あと2つ、本作のギャグにふれておきたい。まず、段ボールを落とした妹が「まるでプラレールのように顔面蒼白で」立っていたという表現がよかった。人間の顔色をプラレールにたとえるとは、むちゃくちゃである。
 それから、「我が情熱(パッション)はもう…!もう…!!」という妹のセリフも、急に「我が」とか言い出すのが突飛で好きだ。

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