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私のガードレール by rimo

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あらすじ

 子供の頃、学校から帰って来ると、毎日祖父が家の前のガードレールに腰かけて私の帰りを待っていた。本当は祖父が大好きなのに、私はそれを人に見られるのが恥ずかしくて、クラスメートが通りかかると祖父を無視して家へ飛び込んだ。祖父は寂しそうな顔をした。
 私が中学2年生の時に祖父は急逝した。この頃会話が減っているから話しかけようと思っていた矢先のことだった。いつものガードレールにもう祖父の姿はない。

レビュー(ネタばれ注意)

 死んだ祖父と孫の少女との思い出をつづった短めのエッセイ。一言で言うと、祖父にもっと孝行しておけばよかったと孫が後悔する話で、飾り気のない短い文章なのだが、ヒロインの感情がしっかり分かるようにポイントを押さえて書かれていて、シンプルな表現が1つ1つ心にしみた。

 この作品ではまず、中学生(場面によっては小学生?)であるヒロインと祖父の関係がとても上手に書かれている。特に、毎日学校から帰って来るヒロインと、ガードレールに腰かけて彼女の帰りを待っている祖父とのやり取りは、人情の機微が存分に描写されていてすばらしい。
 祖父はただガードレールに腰かけて黙って待っているだけだが、不器用で子供のあつかいが下手な彼にとってはそれが最大限の愛情表現なのだ。一方のヒロインもあまり器用な方ではないらしく、自分を待つ祖父と笑顔を向け合うだけで、照れ隠しのために彼とは別々に家に入る。それが習慣なのだという。何ともシャイな家族があったものだ。
 「口数は少ないけれど優しい祖父が、本当は大好きだった。」と彼女は言う。しかし、この少女は祖父母と同居していることや自分の祖父が垢抜けない恰好をしていることを恥ずかしく思っていて、クラスメートが通りかかると祖父を無視して他人のふりをする。そこで淋しげな顔をする祖父を見て、彼女は自己嫌悪におちいり、彼が死んだ時には自分の薄情な態度を後悔することになる。派手な書かれ方はしていないが、家族の微妙な人間関係を描写したこの部分は間違いなく重要な見所だ。

 ヒロインが中学2年生の時に祖父は急逝する。本当にあっけない死だった。私の心を最も強くとらえた箇所は、このシーンにある次の一文だ。

最近、祖父との会話が減っているから、帰ったら話しかけようとしていた。

 思春期の少女が感じる恥ずかしさから祖父にそっけなくしているものの、彼女は本当は祖父が大好きだし、自分の薄情さを密かに申し訳なくも思っている。それで、これはいけないと思って祖父に話しかけようとしていた矢先に突然死んでしまうのだ。こんなつらいことがあるだろうか。葬儀が終わると彼女はまた学校へ通い始めるが、いつものガードレールに祖父の姿はない。そこで、本当はガードレールに腰かけて自分を待っている祖父の姿を見るのが嬉しかったのだと改めて思いやり、二度と彼には会えないのだということを実感する。読者である私は、祖父のいないガードレールが道路脇に立っている光景を想像すると悲しい気持ちになるのだけれども、同時にそれは、祖父の思い出の宿ったとても美しい情景であるようにも思われる。このエッセイも、祖父への不孝を孫娘が後悔する話ではあるが、やはり家族の愛情を描いた美しい作品だと言えるだろう。
 
 話がそれるが、アラクネ文庫がはじめてレビューした作品『ありがとう』(蒼柳 洋さん)も、死んだ祖父に対する孫の感情をテーマにしていて、このエッセイに近い内容の小説だ。はじめてのことでまともなレビューができていないが、小説はとてもおもしろいので、『私のガードレール』が気に入った人にはこちらも読んでみてほしい。

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