積まれた本

ネット小説名作レビュー

八月三十二日 by @otaku

ジャンル

長さ

  • 掌編
  • 1,831 文字
  • 4 分ぐらいで読める

あらすじ

 今日9月1日は高校の2学期が始まる日だ。朝、制服を着た私は駅までやって来たが、気がつけば学校とは反対方面へ向かう電車に飛び乗っていた。

レビュー(ネタばれ注意)

 終わってしまった夏休みをおしむ女子高生の短い旅を描いた、ロマンチックなショートショート。カクヨムで開催中の『あなたの街の物語』コンテストへの応募作であり、鎌倉と江ノ島の話題が出て来て、作品の雰囲気作りに役立っている。

 この小説で特筆すべきところは、作品に1つの「ミステリー」がひそんでいることだ。もっとも最後まで読まなければ謎がひそんでいること自体に気がつかないので、厳密に言うとミステリーとは違うのかもしれないが、ともかく重要なしかけが施されているのである。
 高校の2学期が始まる9月1日の朝、ヒロインは学校へ行くために最寄駅までやって来る。しかしなぜか学校とは反対方面へ向かう電車に飛び乗り、結果的に学校をサボる。その理由について彼女は
「想像よりも呆気なく高一の夏休みが終わってしまったというのはあるかもしれない」
 と言う。それから横須賀線という路線の終点であるらしい逗子駅まで行くのだが、彼女は観光地である鎌倉に行きたいんだと言って1つ前の鎌倉駅まで戻る。そこで昼食のためにラーメン屋に入り、しばらくメニューをにらんだ後で、大吉のおみくじを引いたから少し贅沢をしたいと言ってチャーシュー麺を頼む。さらに電車で江ノ島へ行き、シーキャンドルという観光スポットを訪れる。これがすべて話の伏線だった。実は彼女が逗子駅から引き返したのは、逗子海水浴場の遊泳期間が8月31日で終わってしまっていたからであり、ラーメン屋でチャーシュー麺を頼んだのは冷やし中華が見つからなかったからであり、シーキャンドルの展望台は半袖では肌寒かったという。読者はここで、そんな理由があったのかと驚き、夏休みをおしむヒロインの切実な気持ちを思い知らされる。夏休みを長引かせるために旅に出たのに何度も夏の終わりを思い知らされ、その度に彼女は自分に対して言い訳をしていたのだ。
 帰りしなキンモクセイの匂いをかいだ彼女はぼろぼろと泣く。キンモクセイは秋の花だ。

 そこはかとないユーモアがあり、軽妙で読みやすい筆づかいもとてもいい。よく読めばあらすじにもジョークが含まれていた。どうもネット小説の著者にはあらすじに変なことを書いて笑いをとろうとする人が多い。……いい傾向だ。

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