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走れ by 梨

ジャンル

長さ

  • 掌編
  • 273 文字
  • 1 分ぐらいで読める

あらすじ

 俺は太陽に向かって今日も走る。昼も夜も、何年でも走り続ける。途中で、ロケットを作っているとか、太陽はやめて月に向かうことにしたとか言う奴らに会った。ばか野郎。そんなことをしている暇があったら今すぐ太陽に向かって走れ。

レビュー(ネタばれ注意)

 内容 (273文字) も題名 (2文字) も著者名 (1文字) も短い童話。1分で読める。
 太陽を目指して男がひたすら走るという抽象的な話だが、どことないユーモアがあって、子供が読んでも結構楽しいと思う。全篇が男の独白形式になっているのも何となく童話っぽいと言えるかもしれない。

 主役の男は太陽に向かってがむちゃらに走っている。途中でロケットを作っているという「面白い奴」に会うのだが、そのロケットを作るのに2年かかるときくと、

ばか野郎。
そんな暇があるなら太陽に向かって走れ。

 と一喝し、自分の言葉どおり彼は再び走り始める。
 そしてもう1人、「座り込んで机に向かう奴」を見つける。
太陽に向かうのは疲れたから月に向かうことにした」と彼は言う。これは、生きることに疲れた人間を表しているようで暗示的だ。「月に向かうことにした」のは現実逃避なのか、それともひょっとしたら、よりよい人生を求めて方針の転換を図るのか。この男は話の筋書に関係のない唯一の登場人物だが、物語に味付けをする重要なキャラクターだ。主人公はこの男に対しても

ばか野郎。
座り込む前に立ち上がれ。
休む暇なんてない。

と叱りつけて、走るのを再開する。
 これら2人の人物は著者によるあらすじ

太陽に向かう方法正しい方法なんて誰も知らないし、太陽に向かうべきなのかも誰も知らない

に対応している。

 ともかく
太陽は俺のことを見てるはずだ
 などと言って、彼は何と2年間も走り続ける。でも結局太陽にはたどり着かれず、2年たってロケットを完成させた男に先を越されてしまう。

なんで。
俺はずっと走っていたのに。

 という彼のせりふで話は終わっている。ここまで読むと、1分で読めてしまう極端に短いこの小説にもテーマがあるように見える。融通のきかない人間や、ものをしっかり考えようとしない人間に対する皮肉、あるいは教訓がそのテーマだ。しかし、あらすじに「太陽に向かうべきなのかも誰もしれない」とあることを考えると、太陽にたどり着くことが必ずしもいいことだとは言えない。ロケットで太陽に到着したという男が焼け死んだ可能性もないとは言えないのだ。正しい生き方なんて誰にも分からない、というのが真のテーマなのかもしれない。
 ともあれ、この小説のおもしろさはそういう教訓めいた所にではなく、ユーモラスでセンスのいい文章そのものにあると思う。

 私はまた、目標に向かってひたむきに走り続ける男の人柄がすごく好きだ。人生はこれぐらい熱くなくてはいけない。残念ながらその目標には到達できなかったわけだが、それも人生だと思う。

 ところで、この小説にはなんでR15指定がついてるんだろう……?

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