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変人老科学者の計画 by 十六夜博士

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あらすじ

 ぼくの村の外れには、変人で役立たずとみんなに馬鹿にされる科学者のおジイさんが住んでいた。ぼくはおジイさんが好きでよく家まで遊びに行った。でもある日、太陽エネルギーで動く蟻ロボットを見せてもらっている時に、おジイさんは警察に連行されてしまって、それきり帰って来ない。戦争を推進する体制のやり方に反対したせいでおジイさんは目をつけられていたんだと、お父さんは教えてくれた。

レビュー(ネタばれ注意)

 童話風に書かれたSFで、心に響くストーリーがあってとてもおもしろかった。童話だって、これぐらいの読みごたえがなければ嘘だ。(ただし、著者がこの小説を童話と考えていない可能性はある。)SFなので科学技術の話も出て来るが、話の主眼はどちらかというと、人間のエゴや世の中の不条理という社会的問題にあるようだ。なお、23世紀の荒廃した地球を舞台にしている。

 話の中身を簡単に説明すると、平和を愛する老科学者が体制に盲従する世人に白い目で見られたり、戦争を推進する体制に目をつけられて警察に連行され消息不明になるというものなのだが、この科学者を敬愛する主人公の少年の気持ちが、シンプルかつすごく上手に描かれている。
 たとえば、老科学者が蟻ロボットという、太陽エネルギーでいつまでも動き続ける機械を少年に披露するシーンがある。少年はこの小さなロボットが土の山を築く様子を興味津々で見ていたのだが、間の悪いことにそこへ2人の警察官がやって来て、科学者に嫌味を言い、ロボットの作った土の山をロボットごと蹴飛ばして壊してしまう。

 その瞬間、僕は「あっ・・・」と思わず声を出した。おジイさんが折角作った蟻ロボットと蟻ロボットが健気に作り出した山が無残に砕け散った姿を見て、僕はとても悲しい気持ちになった。

この2文だけで、私には少年の深い悲しさが分かってつらかった。
 老科学者はその場で警察に連れて行かれ、2度と家へ戻って来ない。だが少年はロボットを平和に役立てたいという老科学者の志をよく分かっていて、彼がいなくなった後もちょくちょく主人をなくした家の様子を見に来る。そして、太陽エネルギーで働き続ける蟻ロボットが、土でできたたくさんの小さなプラタナスの木を作って、そこに鳥やら植物が集まって、不毛の荒野にだんだんと緑が再生していくのを目の当たりにする。そして、役に立たないと言われた老科学者の発明が戦争をなくし、世界を救うのだと確信する。私は少年の健気さに胸を打たれた。

 ところで、ここプラタナスが登場するのにはわけがある。この小説は「BOOK SHORTS」というサイトに投稿されたものなのだが、BOOK SHORTSでは、古典小説や昔話などの作品を本歌取りして小説を書くという決まりがある。それで『変人老科学者の計画』では、『旅人とプラタナス』というイソップ寓話がテーマになっている。プラタナスが出て来るのはそのためだ。
 『旅人とプラタナス』は、プラタナスの木陰で休んでいた旅人が
「プラタナスは実もならんし役に立たない木だ」
 と言ったところ
「現に木陰で休んでいるくせに、役立たずとは何か!」
 と言ってその木が怒るという話だそうだ。人知れず役に立っている者もいるんだよ、という趣旨の物語である。
 一方『変人老科学者の計画』では、蟻ロボットを披露する老科学者に対して
「この蟻ロボットは何の役にたつの?」
 と少年がたずね、科学者が
「役に立っているかどうか、すぐにわからないことも一杯あるんだよ」
 と答えるシーンがある。また、老科学者の発明は役立たずとして世間に馬鹿にされてもいる。でも最後に少年は、老科学者の発明が役に立たないなどというのはとんでもない話で、むしろ人類を救う偉大な発明であると考えるようになる。
 このように、つまらないと思われていたものが実はとても有用なものだったこと、さらにそれがプラタナスであったことにより、この小説はテーマである『旅人とプラタナス』を2重にオマージュしている。それも、本作を評価する重要なポイントだ。

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