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アイスキャンディを売り歩くペンギンの団体 by あおいはる

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あらすじ

 高校卒業後、あたしの恋人はアイスキャンディを売り歩くペンギンの団体に入った。彼が言うには、ペンギンが雪に木の棒をすっと突き刺し、すすっと引き抜くと、アイスキャンディができているという。ペンギンのつくるアイスキャンディが気になって、あたしは日に日に眠れなくなり、恋人のことも思い出せなくなっていた。
(一部を作品より引用)

レビュー(ネタばれ注意)

 アイスキャンディを売り歩くペンギンの団体に就職した恋人を持つヒロインの心が、ペンギンとアイスキャンディーに占領されていく様子を描いた、ユニークな掌編小説。前衛的な絵画を見ているようなおもしろさがあった。

 本作最大の見所は独特の世界観だ。ヒロインの恋人は高校卒業後アイスキャンディを行商するペンギンの団体に入って、雪の積もる北国でアイスキャンディを売っている。あたしたちの国からずっと北の、ずっとずっと北の、遙か遠く北の大地に本部があるということで、彼らは温かい地方にはやって来ない。そのため、彼ら恋人は直接顔を合わせることができず、パソコンを使ってメールをやり取りするだけの関係にある。

 作中の描写から想像される絵面が、この世界観を醸すのに重要な役割を果たしている。そこにはペンギンの団体が氷原を行進する光景や、その団体にいる馬とも牛とも見えぬ四足歩行の獣や(トナカイか?)、漫画に出て来る不良に似た海底人の姿なども含まれるが、特に強調されているのはペンギンがアイスキャンディを作る方法だ。

アイスキャンディの原料は、雪である。ペンギンたちが雪に木の棒をすっと突き刺し、すすっと引き抜くと、アイスキャンディができているのである。味は四種類あり、いちご、メロン、ソーダ、抹茶あずき

木の棒をすっと突き刺し、すすっと引き抜く」というフレーズは何度か繰り返し登場する。

 しかし、ユニークな世界観を作り出している真の人物はペンギンではなくて、実は作品のヒロインだ。エキセントリックなヒロインの独白として書かれているからこそ、作品そのものもエキセントリックになっているのである。

 恋人のメールを読んだ彼女は、ペンギンの作るアイスキャンディが気になって仕方なくなり、徐々に睡眠不足におちいり、とうとうペンギンとアイスキャンディのことで頭が一杯になって、恋人のことをすっかり忘れてしまう。この作品のテーマも、そうやってヒロインの頭がおかしくなる所にあるらしい。

 彼女はまた捉え所のない女性であり、恋人のことをどう思っているのか最後までよく分からない。たとえば

雌はペンギンの内の数羽と、二頭いる四足歩行の獣の一頭のみ。余計な心配は無用

 という恋人のメールに対して、

余計な心配は無用。
あたしはときどき、恋人からのメールを声に出して読みました。
こちらの言語が通じないという、馬とも牛とも見えぬ四足歩行の獣のことを、もう少し詳しく知りたいなと思いました。知ったところで、どうってことはないのだけれど。

という、何とも言えない反応をしている。他には次のような独白もある。

恋人がペンギンの団体に入団してから、はじめての冬を迎えました。
あたしは恋人のことを、時折、忘れるようになりました。
顔が、思い出せないことが、増えました。
名前も。

名前は忘れちゃいかんと思う。この部分が作品唯一のギャグなのかどうかは判断が難しいところだ。

 もう1つ大事なことは、このヒロイン、何か分からんけどかわいいのである。
恋人との連絡手段はパソコンのメールだけでありましたが
 という、ユニークな言葉づかいのせいもあるかもしれない。彼女が恋人とメールをやりとりするノートパソコンを床に落とす次のシーンは、特にドラマチックな感じがして私のお気に入りだ。

いとし、きみ。
あたしは、恋人からのメールを声に出して読んだあと、ノートパソコンを床に落とした。
画面が真っ暗になった。あたしと恋人とを繋いでいた、唯一のもの。 
あたしは、さいきん、ちょっとおかしい。

【追記】
まったく関係ないけど、この小説を読んだ時に、子供の頃に見たチューペットのコマーシャルを思い出した。

(Youtubeより)

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