積まれた本

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自由 by としゆき

ジャンル

長さ

  • 掌編
  • 1,630 文字
  • 3 分ぐらいで読める

あらすじ

バイクに乗れば誰だって旅人だ。
(著者によるあらすじを引用)

レビュー(ネタばれ注意)

 さわやかな余韻を残す、おじさんライダーのバイク愛をつづった短いエッセイ。
 著者はバイクを愛するライダーなのだが、バイクの置かれた苦境やバイクに乗る不便から筆を起こしている。冒頭の二文

80年代には年間300万台を超える売り上げを誇った自動二輪車。
今やその数は40万台まで減少している。

 を読むだけでもバイク文化の衰微がまざまざと伝わって来る。危ない物と思われたり、不良の乗り物とみなされてバイクは冷遇されてきた。その上自動車と比べて夏は暑くて冬寒く、服装と安全に気をつかい、髪型が崩れ、ヘルメットが邪魔になり、荷物も積めず、ゆっくり坐れず、風と虫が体に当たり、エアコンもTVもなく、メンテナンスの手間と金がかかる我がままな乗り物であるという。ええとこないやんけと言いたくなる。
 ちょっと話がそれるのだが、バイクの不便を書いた部分に心憎い描写があったので引用したい。

2輪というのは自立することは出来ず、手を離せばたちまち倒れ、壊れてしまう。

常に誰かの手を必要とする。

いろんな意味で人間臭いなと思う。

 2輪がこけるのを自立できない人間に例える表現がおもしろい。バイクをいとおしむ気持ちもこもっている気がする。

 さて、バイクとはこのように不便な乗り物だ。しかし、かけがえのない、いいところもある。秋夜のツーリングをひとしきり描写した後で著者は言う。年をとるとワクワクすることが少なくなる。でもバイクに乗っている時だけは、若い頃はじめてオートバイにまたがった楽しい気持ちがよみがえるのだと。
 そして、その後に来る最後の文章が飛び切りさわやかだ。

移動手段としては車やバスに勝てっこないし、手軽さでは電動自転車で十分だろう。
だけど、バイクに乗っている

その時だけは

誰だって、自由な旅人なのだ。

 はっきり言って、人生は不自由でしんどくてしょうもないことが多い。だけど、バイクに乗っている時だけは「自由な旅人」なのである。自由ほど貴いものが世の中にいくつあるだろうか。
 こんなエッセイを読んでいると、私もふらりと当てのない旅に出たくなる。

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