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家畜の檻 by 豆宮 ふう

ジャンル

長さ

  • 短編
  • 21,955 文字
  • 44 分ぐらいで読める

あらすじ

 食肉用の家畜として育った少女めめは、外の世界で暮すために、仲間の少女ぽっぽ、少年みみとともに農場を脱走する。その日のうちに彼らは街で偶然出会ったノダという教師の家に匿われることになった。
 ある日酒に酔ってくだを巻くノダはめめを襲おうとする。そのこともあって農場の外に暮らす人間たちのけがらわしさに幻滅しためめは、自ら農場に帰ることを決める。

レビュー(ネタばれ注意)

 食肉用の家畜として農場で育てられた少女たちが、外の世界で暮らすために脱走を試みる短編SF。ただし、ただ脱走するだけの単純な話ではない。「めめ」とか「ぽっぽ」という登場人物の名前からは想像しがたい独特の余韻を残す、おもしろい小説だった。

 人間が家畜として育てられているという本作の設定は、SFらしくてなかなかショッキングだ。農場での彼らの生活は穏やかなものとして描写されているが、種親にならない男は子供の時に全員去勢されるとか、耳に黄色いタグがついているなど描写はやはり生生しい。この設定のためもあって、本作には印象的なシーンがいくつか出て来る。
特に強烈なのは、ヒロインめめの親友で、農場を脱走した後につかまった2人の友だちが屠殺されるシーンだ。めめの目の前で、彼らは板状の器具に固定され、喉をかき切られた後に胴体を吊るされて食材として解体される。パンチのきいた描写がこの小説の見所の1つになっている。

 ほかに印象に残るシーンとして、脱走した彼らを匿う男性教師のノダが、めめを襲おうとする場面がある。幸いめめはノダの手を逃れるのだが、それでもこの出来事には物語のキーとなる重要な意味がある。
 当初ノダは家畜であるめめたちに同情的な男として登場し、彼らが人間として暮らすことのできる隣国へめめたち連れて行くという話もしている。また、めめを外出に連れて行き、彼女に頼まれて焼き肉屋に行ったりもする。だが、彼は本物の紳士でなかった。酒をあおって家族の愚痴を言い、妻と離婚したいと話したり、仕事に関する不平も言う。そしてもっと酒に酔った時に、卑猥なことを言って、上で述べたようにめめを乱暴しようとする。
 親切そうに見えた人間が実際にはけがらわしい男であったことを知って、めめは幻滅する。ノダに限らず外の世界一般にめめは幻滅し、自分の意思で農場に帰ることを決める。ここで大事なことは、ノダのおかげで、めめの心の動きが説得力をもって描写されていることだ。

 ヒロインめめのことをもうちょっと詳しく考えてみる。彼女は家畜として農場で生まれ育ったために農場の外のことは何も知らないし、文字を読み書きするだけの教養もない。まだ大人になっていないということだから歳も若い。にもかかわらず彼女はなかなか達観していて、同い歳の2人の友だちとは随分違ったものの考え方をしている。めめの親友であるぽっぽとみみは外へ出れば幸せになれると単純に信じているが、めめは、一見自由である農場の外の人間が実際にはあまり自由でないことを見抜く。もう1つおもしろいのは、彼女が農場での生活を必ずしも否定していないことだ。はじめは彼女も外へ出て自由になりたいと思っていたようだが、実際に出てみて考えを変えた。めめの考えによれば、農場の人間たちは純粋であり、将来的に家畜として殺されるとしてもそこで生きる価値があるのだった。
 また、上等の食肉になることを目標に生きてきたことはめめの際立った特徴だ。これは農場の教育に洗脳されたわけではなく、かつて偶然に肉を食べてそのおいしさをしった経験から、自分も食肉となる時には他人を満足させたいと考えているからだ。このことからも、彼女がしっかりした人生観を持っていることがうかがわれる。
 ちなみに親友が屠殺されるのを見た時にも

彼らは生き物から食材に変わった。あれが私の、私の子供たちの将来の姿だ。悲しくはなかった。辛くもなかった。私はただ、空虚な諦めの穴の底で闇に目を凝らし続けるだけだ。

とめめはコメントしていて、彼女の達観した性格が表れている。
 ここまでめめについて色々書いたけども、私が言いたいことは、そういう彼女の人柄や生き方がこの小説の一番の見所だということだ。

 
 親友の屠殺やノダの狼藉について上に書いたが、私にとって最も印象的だったのは、話の一番最後で、種親である家畜のカンザキとめめが隣合って丘に腰を下ろす所だったりする。カンザキは農場唯一の種親、つまり家畜の女性たちを孕ませる役割を持つ男だ。体格は逞しく、歳は壮年ぐらいだと思われる。めめは自分から彼の横に座るのだが、それは彼女がカンザキのことを多少知っているからだ。以前めめは放牧中のカンザキに出会ったことがあり、その時に野生のハトの肉を焼いたものを分けてもらった。カンザキは家畜だし見た目にも洗練されているとは言えないが、ノダと違って男らしい思いやりを持っている。めめは彼が好きであり、その隣に腰を下すことで彼女なりに人生をエンジョイしているのだ。
 ここでふれておきたいのが、カンザキは元々農場の外に暮らす人間だったということだ。外のわずらわしい世界で暮らすよりは、家畜であっても種親として農場の女性たちと楽しくやっていきたいと思ったのかもしれない。そういう意味でもめめとカンザキは気が合うのだろう。
 そういうわけで小説最後のその場面を引用してレビューを終わる。こんな上手に幕を引く小説は幸せだ。

 屠畜場から農場に戻った後、私は放牧地に放された。初夏の太陽も、今を盛りと枝葉を伸ばす草木も、今の私には眩し過ぎた。
 小さな丘の中腹に、がっしりとした男が半ば草に埋もれて座っていた。カンザキだ。子供の父親になるべき男。
 私はカンザキに寄り添うように腰を下ろす。男は何も言わない。私も何も言わなかった。
 しばらく静寂を分け合った後、カンザキは私の肩を抱いて引き寄せた。

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