積まれた本

ネット小説名作レビュー

カクヨムで己のフェティシズムを前面に出している俺が読み専の彼女にユーザー名を明かせるわけがない! by 陽野ひまわり

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あらすじ

 小説投稿サイトのカクヨムで、股上の浅いパンツからギリギリ見える女性のお尻の上部のくぼみ「ギリくぼ」の普及をもくろむ大学生の倉田くん。読者としての彼は『兄と妹のチートすぎる異世界生活』というネット小説を応援しているが、残念ながらほかの人には評価されない。彼は同級生のカクヨム友だち、坂下さんに繰り返しこの小説を薦めるものの、なぜか彼女は生返事をするばかりだった。

レビュー(ネタばれ注意)

 読みやすくておもしろい、ネット小説をテーマにしたネット小説。「フェティシズム」の言葉を含む長大で奇抜なタイトルに反して実はハートフルな作品であることは、小説の副題「実はハートフルな物語なんです。」にあるとおり。

 そんなわけで、タイトルなどにライトノベルっぽい所があるこの作品は、読んでみると実は正統の青春小説であることが分かる。努力、夢、恋愛、学校生活という要素をすべて備えていて、話の作りや文章の書き方もしっかりしているので、十分な読みごたえのあるエンターテインメント作品になっている。最後は心やさしい大学生男女がええ感じの雰囲気になって終わる。実に青春だ。

 だが、この小説にはユニークな点もある。ネット小説にまつわるエピソードがそうだ。主人公の倉田くんは、おもしろいのに人気が出ないネット小説『兄と妹のチートすぎる異世界生活』を愛読し、感想を送るなどして応援している。彼の心は次に引用する文章に要約されている。

 なぜ皆この作品の面白さを理解しないのだろう。
 禁断の兄妹恋愛モノなら飛びつく奴も少なからずいそうだが、この作品に限っては、シスコンでもブラコンでもない普通の兄妹だからこそ面白さが出ているというのに。
 作者である坂本マキヤさんが他の作品をレビューしていないことや、近況ノートをめったに更新していないことが読者がつかない理由なのだろうか。
 本当に素晴らしい作品は、そんな営業活動をしなくても評価されるべきなのに。

 むちゃくちゃおもしろいネット小説が、定石から外れる書き方をしたり営業活動をしていないために、他の作品に埋もれてしまう。実に残念な話じゃないか。
 ところで本作を読んでいる時に、『兄と妹のチートすぎる異世界生活』の著者が、ヒロインの坂下さんと同一人物なのではないかと疑った読者は多いと思う。というか、小説を読みなれた人なら一度は間違いなくそのことを考えるだろう。『兄と妹のチートすぎる異世界生活』の著者、坂本マキヤとヒロインの名字は同じ読み方ができて思わせぶりでもある。本作『カクヨムで己のフェティシズムをほにゃらら』の登場人物は事実上主人公の倉田くんとヒロインの坂下さんしかいないので
「もし坂下さんが坂本マキヤだとしたら話が安直すぎる。どうかその展開だけは避けてくれ……!」
 と、私ははらはらしながら読んだのだが、幸い坂下さんと坂本マキヤは別人だった。めでたし、めでたし。

 さて、上に色々書いたが、この小説一番の見どころは実は「ギリくぼ」にまつわるギャグなのかもしれない。主人公の倉田くんによると「ギリくぼ」とは「股上浅めのパンツを履いた女性がかがんだときに見える、お尻の割れ目ギリギリ上の凹(くぼ)み」のことだ。人体のこの部位、もしくはお尻の上部が少しだけ見えるこの現象に名前を与えたのは、この小説の著者が日本ではじめてだ(多分)。倉田くんは、小説投稿サイト「カクヨム」ではパインクラッシュのペンネームを持つ「ギリくぼの伝道師」として知られていて、カクヨム友だちの坂下さんに自分の正体がばれてドン引きされるかもしれないという あほくさい 深刻な悩みを抱えている。
 この倉田くんはインターネットで小説を投稿しているという。どんなものを書いているのかと思ったら、話の途中で彼の書いた作品が紹介された。
ギリくぼヒロインがローライズパンツを武器に世界征服を企ててみたのですが
 というタイトルだった。すごい笑った。ローライズパンツを武器にして世界を征服するという意味不明な蛮勇、「ギリくぼヒロイン」という一般人には通じるべくもないキーワード、そして末尾の敬語に現れる謎の礼儀正しさ。最高だ。『兄と妹のチートすぎる異世界生活』よりも、私はむしろこっちが読みたい。

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