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ネット小説名作レビュー

恋に落ちるコード.js by 足羽川永都(エイト)

ジャンル

長さ

  • 短編
  • 30,000 文字
  • 1 時間 0 分ぐらいで読める

あらすじ

 どこか(多分福井県)にある高校の情報処理部で活動している瀬尾絵子は、同級生の部長、篠宮樹里からプログラミング言語 JavaScript の手ほどきを受ける日々を送っている。樹里は奇妙なたとえ話や例文を持ち出して絵子をからかうが、絵子が JavaScript を勉強しているのも実は樹里に教えてもらえるからだった。

レビュー(ネタばれ注意)

注意: このレビューを書いた後で著者による作品の更新がありました。そのためレビューの内容が実際の作品と異なる場合がありえます。

 高校の情報処理部の女の子たちが、プログラミング言語、JavaScriptの初歩を楽しく教えてくれるというコンセプトの異色作。でも、おもしろい。プログラミング言語というのはプログラムを書く時に使う言葉のことで、たとえばこういうやつだ。 ↓ (本文より引用)


var juri, eko;
juri > eko ? (
 document.body.textContent = "樹里様おめでとう!",
 document.body.style.backgroundColor = "gold"
) : (
 console.log("絵子")
)

意味が分からなくても大丈夫。部分的について行けない所もあると思うが、プログラミングを知らない人でもおおむね問題なく楽しめるようになっている。この小説の第1の売りは、女子高生たちのゆるく楽しい会話にあるのだ。もちろん、知っている人が読んだら一層おもしろいだろう。ちなみに、小説タイトルの「js」はJavaScriptを表している(厳密に言うと拡張子)。
 一般にはなじみの薄いテーマだが、この小説にはJavaScriptの知識を上手にいかした様々なネタが仕込まれていて、知らない人にも何となく分かるようになっている。テーマがマイナーだからダメということはないのだ。たとえば

「じゃあ絵子、ECMAとは何の略か知っているか」
「え?えっとぉ……」
「……絵子ちゃん、キューティーミステリアスエンジェル、とか? …………」

というやり取りは、ECMAScriptという専門用語を取り入れたジョークであり、ECMAScriptという言葉を知らない人にも通じるようになっている。
 さらに大事なことは、ニッチなテーマに対する愛やこだわりこそが、この小説の持ち味だということだ。私は、一般受けするからといってこの小説の著者にポケモンGOを題材にした作品を書いてほしいとは思わない。(誤解のないように言っておくと、私はポケモン世代ど真ん中であり、ポケモンは大好きだ。)JavaScriptに加えて、なぜか福井県のローカルねたがたくさん出て来るところにも注目。こちらも、知らない人が読んでもおもしろいように書かれている。

 プログラミング言語を教える体裁で書かれていることがすでに異色だが、この小説は、文章の大部分が会話文でできているという点でも特殊である。異色も異色、オンリーワンな作品なのだ。
 著者のコメントによると、『あずまんが大王』や『じゃしらく』という漫画のように、女の子が日常の中でしゃべっているだけの面白さを目指した、ということで、わざとこの形式で書いているようだ。狙いどおり、ちゃんとおもしろくなっているところがすごい。

 ところで、著者も公言しているとおりこの作品はゆるい。小説各話のタイトルはそれぞれ

#1 恋に落ちるループ -While I’m falling in love-
#2 恋に落ちる宣言 -Y’all, I’ve fallen in love!-
#3 恋に落ちる条件 -If Ifell in love-
#4 恋に落ちるスイッチ -Do you love me, or not?-
     ――以下略――

などとなっているが、ほとんどの場合恋とは関係ない内容になっている。さすがのゆるさだ。でも、何だかんだでヒロインの絵子はちゃんと恋を感じているらしい。JavaScriptに、そしてひょっとしたら、JavaScriptをやさしく教えてくれる友だちの樹里に。そういう若々しさもまた、この小説のよさである。

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