積まれた本

ネット小説名作レビュー

by 宗岳真太朗

ジャンル

長さ

  • 掌編
  • 1,239 文字
  • 2 分ぐらいで読める

あらすじ

 コンビニで公共料金を支払った帰り、男は人間の首が道路に落ちているのを見つける。目黒不動尊まで連れて行ってくれないかと首に頼まれたので、申し訳ないが大通りまででいいかと訊くと、それでもいいと首は言った。

レビュー(ネタばれ注意)

 男が道端で言葉を話す首に出会うという、ホラーと見せかけて実はホラーではない短編小説。抽象的な内容で、体のない首がなぜ動き、ものを言うのかということはもちろん、その首や主人公の行動もかなり謎めいている。そういうことは多分深く考えても分からないのであって、私はこの小説は、独特で奇妙な雰囲気を楽しむものなのだと理解している。色々考える余地があるのが楽しいのだ。
 この小説では、主人公の男がコンビニから家へ帰る途中に、道に落ちている男の首を見つけ、その首に目黒不動尊まで運んでくれと頼まれる。しかし、首が目黒不動尊を目指す理由は最後まで明かされない。私は不幸にして今まで目黒不動尊へ行ったことがないのだが、ひょっとしたら、この寺がどういう所かを知ることで彼がそこへ行きたがっている理由が分かるかもしれないと考え、インターネットで目黒不動尊を調べてみた。――何も分からなかった。やはりこの小説の筋書きに意味を求めるべきではないのだろう。でも、目黒不動尊には病気平癒の利益があるというから、ことによると首は何かの病気(体がないこと?)を治したかったのかもしれない

 この首に関して1つふれておきたいことがある。それは、主人公が首に出会った時の描写だ。すごく臨場感があるのである。

首は道ばたの暗がりに頭を俺と反対側にして右の頬を下に寝ていた。俺は近くに行くまでうずくまった猫だろうと思っていた。髪の毛は長いが性別は男のようで目は一重。
口の開け閉めで移動してきたのか、やけに頬が汚れている。

 特に「口の開け閉めで移動してきたのか、やけに頬が汚れている。」の部分がいい。男の首が口を開け閉めして道路を進む様子が生々しく想像され、作品の奇妙な雰囲気作りに大きく貢献していると思う。

 さて、この作品の1つの見所だと私が思うのは、男が首をタクシーへ乗せてやるシーンだ。最初、目黒不動産まで連れて行ってほしいと首に頼まれた男は、
申し訳ないがその願いは聞けないので、大通りまででいいか
 と答え、そのとおりにする。だが大通りまでやって来た時、彼は首を驚かせる計画を思いついたといってその首をタクシーに乗せ、釣りはとっておいてくれと言って運転手に5千円札を渡し、首を目黒不動尊まで運んでやる。この親切な行為が男らしくてかっこいい。釣りを運転手にとらせたのは、首が小銭を持ち運べないのをおもんぱかってのことだろう。
 なお、この5千円は冒頭で寄ったコンビニで、店員の間違いによりお釣りとして余分に受け取ったものだ。はじめのコンビニのシーンが伏線になっているのである。話の作りがうまい。それを踏まえて主人公の男は、タクシー代を払ってもらうことに負い目を感じる首に
「俺の手元にあるべき金ではないんだ」
 と言って笑ってみせる。多少意味の分からない部分はあるけど、このせりふがまたかっこいい。

 小説の最後の部分も意味深長でおもしろい。その段落を引用する。

 タクシーはドアを閉めて走りだした。俺はタクシーが見えなくなるまで見送った。道はすいていおりタクシーの姿はすぐに見えなくなった。
俺は青になった横断歩道を渡りながら、フリースのチャックを一番上まで上げて一つわざと身震いをして家へ急いだ。

 わざと身震いしたのは、それまで生首を相手に平然と話していたことに対して、後で身震いをして怖がる素振りを表すことでつじつまを合わせるという、高度なユーモアなのだろうか。

 ちなみに、著者の申告によるとこの小説は「童話・児童文学」だということになっている。……ほんまかいな。

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