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狂いたい朝 by Unknown

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長さ

  • 掌編
  • 1,493 文字
  • 3 分ぐらいで読める

あらすじ

 朝が来るのが嫌だから夜はずっと起きている。眠らなくても、朝は必ずやって来るのに。
(一部を作品より引用)

レビュー(ネタばれ注意)

 わざとらしいことを書いているようでありながら、様になっていて共感できる詩。はじめから最後まで後ろ向きなことしか書いていないが、人間には確かにそういう側面があり、だからこそ共感を覚えるし、言葉もスムーズに胸に入って来る。言葉使いにも嫌味がなく、リズム感もいい。

朝が来るのが嫌だから夜はずっと起きている

の一文で詩は始まる。これだけでもう、作詩者の言いたいことが分かってしまう。私でなくても、日本でサラリーマンをした経験のある人なら大概分かるだろう。学生でも分かるかもしれない。
 だが、もちろん夜の間ずっと起きていても朝は来る。

意味も無くずっと起きている

来なくていいのに朝が来る

 と彼は言う。そして

意味も分からず外に行く

のだ。「意味も分からず外に行く」という言葉の意味が私にはとてもよく分かる。「狂いたい朝」という題名も、狂ってしまうことで嫌なことを分からないようになりたい、狂って事故にあって死んでしまいたい、あるいは、病人と同じように、狂っていると他人にみなされることで、人間の義務やしがらみを免れたいという願望を表しているようだ。

 朝が来ただけではこの詩は終わらない。その後、家を出て駅へ行き、電車に乗るところまでが描写されている。朝起きていつもの電車に乗る毎日を彼は嫌がっているが、現実からは逃げられないのだ。しかし彼は言う。

逃げる方法は今ここに一つある
もうすぐ電車が来るから線路に降りて轢かれればいい

ただし、ことはそう簡単ではない。

でも線路に降りる勇気なんて無かった
狂えるほど現状は辛くない
病気になるほど現状は辛くない
ことが辛い

狂ったり病気になるほど現状は辛くないことが辛い。というセンスがすごい。この著者の言うことは一々当を得ていて共感を抱かせる。

 この詩にはまた

俺なんかより遥かに嫌な一日を何度も繰り返している人はすぐ身近にいる

というフレーズがある。これはなかなか意味深長だ。はっきり書かれていないが、多分、他の人ほど辛い思いをしていないくせに泣き言を言う自分を卑しめる気持ちがこもっているのだろう。
 その後、他人の無表情を観察しつつ電車に乗り込んだ彼は、女子高生たちが大声で歌う障害者を笑っているのに出くわす。
ここで、

俺はそれを見て特に何も思わなかった
睡魔と戦うだけで必死だった

という描写がある。素直に解釈すれば、人のことを気にかける余裕がない。ということになるだろう。でも、その直後の

笑っている人たちを指摘する人は1人もいない
嫌だ

と言う部分もふまえ、あえて深読みしてみたい。普段なら人に笑われる他人を見て身につまされる思いをするところだが、この日は眠すぎてどうでもよくなったのだと。

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