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ローカる埼玉 〜埼玉県民も知らない!? 知って得しない埼玉の初耳学〜 by 榊原 隼人

ジャンル

長さ

  • 短編
  • 16,167 文字
  • 32 分ぐらいで読める

あらすじ

 埼玉県の日本一や、ひらがなの県庁所在地が生まれたいきさつ、矛盾した特産品のブランド名の秘密など、「知って得しない」けどおもしろい埼玉県の無駄知識を、埼玉で生まれ育ち、「割と地元愛が強い」著者が詳しく紹介する、読みごたえ抜群のエッセイ。

レビュー(ネタばれ注意)

埼玉生まれ・埼玉育ちで、割と地元愛が強い。」と自負する著者による、埼玉県のトリビアを紹介するエッセイ。県のエッセイまで書く人がすごく好きだと言い切らないところに埼玉の悲しさが垣間見える。「埼玉県民も知らないし、知って得もしない」という異常に控えめなサブタイトルも埼玉の県民性なのだろうか。だけどこのエッセイ、関西人の私が読んでもむっちゃおもしろい。

 埼玉に生まれ育ったというだけのことはあって、本作では埼玉県に関するディープなネタが詳しく紹介されている。1つずつ簡単に見てみよう。
 第1話で紹介されるのは、埼玉県の誇る「日本一」だ。市の数やシャープペンシル出荷額など、合計7品目が例に取り上げられている。シャーペンの出荷額のような統計が存在することには驚かされる。市の数が一番というのはなかなかすごい。これは多分埼玉の人口が多いことと関係があるだろう。人が多い地域ほど行政区画も細かく分かれる傾向があるように思う。全国5位の総人口は伊達ではない。
 アイスクリームと洋菓子の出荷額も全国トップだということだが、アイスクリームは洋菓子の一種だと思うのは私だけだろうか。

 第2話では、埼玉が東京スカイツリーの建設候補地だったことが書かれている。「さいまたタワー」と名づけられる予定だったという。……何ともいいがたい名前だ。しかし、重大な問題が見つかったので計画は頓挫したそうだ。本文からそこの所を引用する。

 だがそれ以上に、新都心案には決定的な欠陥(けっかん)があったのだ。なんと さいたま新都心に電波塔を建設した場合、墨田区に建設するのに比べて7倍の電波障害を引き起こすのだという。

計画前に分からなかったの……?

 第3話では、新幹線も停まる埼玉県最大の駅が、なぜ県庁所在地だった旧浦和市ではなく旧大宮市にあるのかということが書かれている。第3者である旧岩槻市がかんでいるとのことで、埼玉県に浦和と大宮という規模の拮抗する大都市が2つある理由がよく分かる、とてもおもしろいエピソードだった。

 第4話では、平成の合併でできた「さいたま市」の名前がどうやって決まったか、なぜひらがななのかということが書かれている。これも、自治体の駆け引きや、不自然なひらがなの名前になったことが詳しく述べてあっておもしろい。

 第5話は「川越いも」という埼玉の名物が実は川越市とは違う場所で作られていることと、その経緯を説明している。(後述)

 第6話では、埼玉県出身であることを秘匿する埼玉人がおかしがちな過ちを、コラムとして2つ紹介している。

 第7話では、「埼玉スタジアム2002」というサッカー場を作るために、埼玉県の公務員の給料が削られたエピソードが詳細に取り上げられている。あまり詳しいので、著者は埼玉スタジアムに恨みを抱く公務員なのではないかと勘繰りたくなるほどだ。

 エッセイの内容は上に書いたとおりだが、本作のすごいところは、取り上げる話題が1つ1つ興味深くておもしろいことと、解説がとても詳しいこと、かつ分かりやすいことだ。
 たとえば、埼玉名物だという「川越いも」の話では、まず川越いものブランドに「富(とめ)の川越いも」というのがあることが紹介される。この「富」というのが実は川越とは違う場所にある埼玉の地名であり、これが「埼玉県三芳町上富(かみとめ)、埼玉県所沢市中富(なかとめ)、同市下富(しもとめ)の3つの地域を合わせた言い方で、広くは三富(さんとめ)と呼ばれることもある」ということを、次に説明している。私にとってはこれだけでもそこそこおもしろかったが、さらにここから話は江戸時代にまでさかのぼり、三富地域と川越の地質や、埼玉と江戸を結ぶ水運のことまでからめて、「富の川越いも」という矛盾したブランド名が生まれた経緯が述べられる。上々の読みごたえだった。
 ここでは詳しく述べないが、埼玉の鉄道事情が詳しく書かれているところにも注目したい。

 さらに、ちょくちょく自虐的なジョークをはさむユーモラスな語り口もこのエッセイの魅力だ。たとえば、次のようなことが書かれている。

 今でこそ薄れつつあるが、埼玉県の魅力のなさ、ダ埼玉というイメージ、そういった影響からか、埼玉県民は自身の出身地を他人に言わない傾向があると言われている。
「埼玉県民は出身地を訊かれると、『出身地? 東京らへん……かな』と答える」などという、どこまで本当なのかも分からないような逸話もあるほどだから、この傾向はホンモノである。

はっきり言って、埼玉のことはせんべいと古墳とクレヨンしんちゃんしか知らないけど 埼玉はいい所だと思う。県民の人々にはもっと自信を持ってもらいたい。

 次のレビューも、同著者による埼玉のエッセイを紹介させていただく予定。

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