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マッハ姉さん by こてさきのてばさき

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あらすじ

 西日に燃える髪をなびかせ、際どくまくれたスカートの裾を見せつけて、マッハ姉さんは自転車をこぐ。その速度は尋常ではなく、自動車すら追い抜きかねないように感じられた。そのスピードとスカートの裾に魅せられた男子小学生たちは、超速い女子高生、マッハ姉さんの走行を止めることをもくろむ。

レビュー(ネタばれ注意)

 尋常ではないスピードでママチャリをこぐ女子高生と、彼女の正体を突き止めようとする男子小学生たちの一方的な戦いを描く、掌編コメディ。
 わけが分からない人物をテーマにしている上に、男子小学生たちが自転車に乗る彼女を止めとして失敗する、というストーリーは少し地味かもしれない。さらには、冒頭で

 マッハ姉さんの話は、女子には秘密である。
 なぜかは言えない。言う必要もない。うるさく問いかける奴がいたとしても、その姿を一目見ればきっと口をつぐむだろう。
 マッハ姉さんとは、そういう存在である。

みたいなことを言って盛り上げておきながら、実際の内容が全然違っているといういい加減さもある。
 だがしかし! この著者、文章がむちゃくちゃうまい。そのせいで、意味の分からない地味な話なのに、何となくおもしろくて最後まで読んでしまう。筆力にものを言わせてどうでもいい話をおもしろく書き上げた、力技的小説なのだ。『マッハ姉さん』というタイトルからしてうまい。語感もいいし、何となく読みやすそうな気がするし、内容も気になるし、言うことがない。

 もう少し具体的に言うと、大袈裟な言葉使いと、「そんな風にはならんやろ」と言いたくなる、おかしなエピソードがおもしろい。一部分だけ取り出してもおもしろさが伝わりにくいことを承知の上で、いくつか例をあげよう。まずはマッハ姉さんがにわかに男子小学生たちの注目を集めるシーン。

そのただの女子高生が高速で通過する様子を眺めるために、男子小学生が群れをなすという異常な状況が続いた。
 もちろん、出現する日もあれば、しない日もある。むしろ現れないことのほうが多い。だからこそ目撃したことの価値は増し、熱狂はより深まっていった。

 出現するとかしないとか、珍獣並みのあつかいだ。
 次は、マッハ姉さんをもっとつぶさに観察するために、有志数名が自転車での併走に挑戦するシーン。

 ある日の放課後、有志の数名が、自転車にまたがってマッハ姉さんが現れるのを待ち構えた。何日か空振りが続き、ようやく姿を見せる。
 初回は話にならなかった。最高速で通過する彼女に対し、漕ぎ出しで完全に遅れてしまったのだ。しかしその一瞬の併走だけでも、彼女の速さに戦慄するには充分すぎた。

 女子高生が人を戦慄させる速度でママチャリをこぐというのは、私の想像を超えている。もっとも、それより前に「そこいらを走る自動車を追い抜きかねないように感じられた」などと書いているので、今さらそんなに驚かないが。
 そして、多分一番馬鹿々々しいのは次のシーンだ。

 一方で、彼女の速度に対抗するのではなく、単に彼女の行く先を追いかけようとする向きもあった。その都度、走り去る彼女を見失った地点で張り込みをすることによって、いずれは行く先をつきとめられるという寸法である。地道だが、確実ではあった。
 けれどもその目論見は彼らの大多数から批判を受けた。マッハ姉さんとは、すなわち速さなのだ。それを、敵わないからといって避けるのは卑怯だし、その手段を選ばない態度がとても不健全に思われた。その感覚は男子小学生には受け入れがたいものだった。
 それに、彼らに残された時間はそう多くなかった。女子たちが不審がりはじめたのだ。

マッハ姉さんのスピードを避けるのが卑怯だとか、それ以上ないぐらいどうでもいい議論である。よってたかって1人の女子高生を追っかけておいて、今さら卑怯も不健全もないものだ。姉さんも尋常ではないが、この小学生たちもずれている。
 さらに
彼らに残された時間はそう多くなかった。
 としかつめらしく言っているが、この理由がまたしょうもない。彼らがマッハ姉さんを追っかけているのは、彼女の「際どくまくれたスカートの裾」に興味があるからでもあるのだが、それが「女子たちに知られたら、すべておしまいである」らしい。理由もしょうもないし、女子に知られても別に何も終わらないだろう。
 ほかのシーンにはこんなことも書いてある。

 マッハ姉さんとは、すなわち速さである。だけれども、それだけではけっしてなかった。炎の髪と、際どくめくれあがるスカートと、そこから伸びる足と、ママチャリと、涼やかな乗り様と、そして高速走行と、それらをひっくるめてマッハ姉さんなのだった。その理解が、彼らにはなかった。ただの超速い自転車の女子高生でしかなかった。実際そうであったとしても、それはマッハ姉さんとは別のものなのだ。

超早い女子校生は、ただの女子高生とは言わないと思うのだが。

 最終的に小学生たちは数を頼みにマッハ姉さんに挑戦し、力づくで彼女の走行を止めようとするが、本気を出した姉さんに突破されてしまう。力のあまり破損した自転車のペダルと、亀裂骨折をした小学生男子を後に残して、姉さんは西日の中に消えて行った。――結局どういう話なんだろう。

 ユーモアについてはそんな感じだが、この小説の見所にはマッハ姉さんその人の魅力をつけ加えることもできると思う。
 第一に姉さんはセクシーだ。自転車をこぐだけで数多くの男子小学生を魅了したんだから、スピードだけでなくセックスアピールにも並々ならぬものがあるだろう。
 しかも彼女はかっこいい。自動車と比較される圧倒的なスピードと、自転車のペダルをぶっ壊すパワーを持っていて、言葉づかいも次のようになぜか男らしい。と、同時に女らしい外見とのアンバランスがかわいい。↓

わ! な、なんだおまえらっ! なにやってんだ!?

わわわわ、あぶっ、あぶなっ……!

だからっ……、なんなんだおまえらはーっ!

 自転車を駆る姿もスタイリッシュだ。もう一度本文を引用する。

日が暮れかけており、西日が強く照りつけていた。背中まであろう長い髪が、逆巻く風圧と斜光を受けて、赤々と燃え上がるようであった。
 誰が呼んだか、マッハ姉さん、と――

まるで一昔前のヒーローのようなかっこよさじゃないか。

【参考】(Youtube)

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