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マインスイーパ ~二人の地雷処理者~ by 夜行一儀

ジャンル

長さ

  • 短編
  • 26,185 文字
  • 52 分ぐらいで読める

あらすじ

 大学で人気の美女、横井かすみの一声で始まったマインスイーパ大会(※)。高校以来かすみに片想いするマインスイーパプレーヤー、鮒木も彼女に請われて参加する。男の意地にかけても、かすみの恋人、銀崎に負けるわけにはいかないが、敵の実力は鮒木の想像を遥かに超えていた。
(※マインスイーパは数独などと同系統のフリーPCゲーム。)

レビュー(ネタばれ注意)

 フリーゲーム「マインスイーパ」を通じた男たちの熱い戦いを描く、エンターテインメント小説。どうでもいいことを必要以上に壮大に描くこういう小説、最高だ。

 マインスイーパはシンプルなパソコンゲームで、数独みたいなものだと思ってもらえればいい。Windowsパソコンを買ったらただでついて来るので知っている人も多いだろう。はっきり言ってどうってことないゲームなのだが、本作では主人公の鮒木が、男の意地をかけて恋敵の銀崎と手に汗握る戦いを繰り広げる。この小説では、マインスイーパという割とどうでもいいゲームを信じられないぐらいの力を入れて書いていて、エンターテインメント小説としてちゃんと成り立っているどころか、とてもおもしろい作品になっている。私はその努力に脱帽しつつ、あまりの馬鹿馬鹿しさに笑ってしまった。

 さて、主人公の大学生、鮒木は横井かすみという同級生に高校時代から片想いしている。見た目にも能力にも特にすぐれた所がない男だが、かすみの恋人である銀崎がマインスイーパをしていることを知り、せめてゲームでだけでも恋敵に勝てるようになりたいとマインスイーパを始める(ただし、直接勝負するわけではない)。すごいのは、その没入ぶりだ。彼の生活はマインスイーパを中心に回っており、目を覚ましたらまずワンプレイ、目を閉じれば果てしない地雷原(マインフィールド)の夢を見るという。この男尋常ではない。
 やがて鮒木は、かすみが企画したマインスイーパ大会に参加することになる。優勝したらかすみが1つだけ言うことをきいてくれるという。はじめ鮒木は自分の勝利を確信し、こんなことを考えていた。

 銀崎に圧勝し、かすみを奪う権利を与えられながらも、何も求めることなく、その場を後にする──勝つことを前提にした、自己愛過分なそんな未来を描いていた

かっこつけるのはいいけど、さすがにゲームに勝ったぐらいでかすみを奪うのは無理だろう。
 しかし、鮒木は大きな誤算をおかしていた。かすみの恋人銀崎は顔も頭もよくて社会的な地位もある絵に描いたような色男なのだが、実は単なる軽薄な男ではない。彼は15年に渡ってマインスイーパに生活を捧げてきた、スーパープレーヤーだったのだ。マインスイーパの世界では「色男 金と力は なかりけり」などという話は通用しない。銀崎にとってマインスイーパは人生なのだ。圧倒的なキャリアを持つ銀崎を前にして鮒木は窮地に立たされる。

 しかし鮒木はあきらめない。あきらめずにわずかな勝機をつかむのが、マインスイーパプレイヤーの精神だからだ。そういうわけで彼は銀崎と全力の勝負を展開するのだが、その様子がまた丁寧に描かれていてすばらしい。マインスイーパをテーマとする小説として、期待を裏切らない戦いを読者に提供してくれる。
 試合は全部で3回行われる。1回目の試合では、「121」の法則や、最初に角のパネルを開く、パソコンの設定を変えるなどの定石が紹介され、マインスイーパというゲームの奥深さが感じられるようになっている。銀崎が鮒木と同じ種類の「マイマウス」を使っているというサプライズもある。この試合で鮒木は、銀崎が自分を上回るタイムを出したことに衝撃を受ける。次の引用にあるように、ライバルの銀崎ものりのりだ。

 振り向けば、同じ様に鮒木のモニタを覗き込む銀崎の姿があった。
 銀崎がこちらを見た。獲物を狙う猛禽の眼差しだった。
「──次は、自分のマウスを使うんだな」

 第2試合で、鮒木は心理戦をも駆使して勝利を目指す。しかし逆に、型破りの戦法を展開する銀崎に度肝を抜かれてしまう。ここでも銀崎のプレイがいい感じに大袈裟に書かれている。

 しかし銀崎のプレイは、そのセオリーを嘲笑う。
 レースに例えれば、こうだ──果敢にコーナーを攻める鮒木に対し、銀崎は未舗装のコース外をショートカットしていく。誰もそれをしないのは、文字通り、そこが地雷原だからだ。
 しかし最速のルートは、確かにそこに存る。
 嗅覚──とでも呼ぶべきか。
 理論を越えた、特別な感覚でもなければ成立しえない高速戦術──
 黄色いアイコンが笑い、ハイスコアが飛び出した。

 この試合では、マインスイーパを侮辱した対戦相手の顔面に銀崎がパンチを叩き込むという事件が起こる。殴られた男は壁に叩きつけられて血まみれになる。
ゲームくらいで人を殴るなんて、サイテーだよ
 と言う恋人かすみの意見は間違ってはいない。しかし、マインスイーパが銀崎の人生そのものであることを考えれば、それもやむをえないことなのだった。これをきっかけに彼らは破局を迎えるが、それもやはり仕方のないことだ。マインスイーパは銀崎の人生だが、かすみは彼の人生ではないからだ。

 この試合の後で鮒木は、銀崎が子供の頃からマインスイーパを続ける大ベテランであることを知り、普通に戦っては勝ち目がないことを悟る。そして、マインスイーパから得た教訓を活かして活路を見出そうとし、マウスの代わりにペンタブ(マウスの代わりに使うペン状のパソコン機器)を使ってタイムを縮めるという戦略を打ち出す。かすみが大会を中止したので彼らが戦う理由はもはやないはずだったが、真のプレーヤー同士である彼らは、大学の誰もいなくなったコンピューター室で最後の勝負を行う。試合開始シーンはこんな感じ。

 秋空のような鮒木の顔に、迷いの雲がよぎった。
「……なあ、銀崎。お前は、何で……」
「どうした」
「いや……やっぱりいい」
 描画ソフトを切ると、鮒木は立ち上がった。
「始めようか」
「ああ」
 無音で立ち上がるはマインスイーパ。
 魂を引き寄せて止まぬ、灰色の戦場。
 対峙する二人の戦士に、もはや言葉は不要だった。

 この試合では銀崎のノンフラグ戦法、鮒木のペンタブ戦法、そして一発逆転を狙ってそれを発展させたペンタブ・マウス両手持ち戦法というエキサイティングな手法が次々と繰り出され、ラストにふさわしい大勝負となる。結果としては運に味方された銀崎が勝ったらしいが、実質的には鮒木の勝ちだと彼は考えたようだ。
 激闘の後で彼らは心の友となる。ドラマとこだわりに満ちた、すばらしい青春小説だった。

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