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みにくい羊 by 緋みつ

ジャンル

長さ

  • 掌編
  • 495 文字
  • 1 分ぐらいで読める

あらすじ

 あたたかな暗闇の中で、死にたどり着くために、私は羊の数を数える。しかし私の代わりに、柵を乗り越えられない羊たちが真っ黒な血を流して死んでいく。百数えてはふり出しに戻り、また百数えては最初に戻る私に、薄汚れた羊たちが「はやくねむれ」と催促する。

レビュー(ネタばれ注意)

 ベッドの中にある自殺未遂者の心象を描いたらしい、暗い詩。普通の人が眠る時に数える羊の数を詩の語り手は死ぬために数える。
 羊たちの描写がまた暗く、グロテスクだ。ベッドの上の人物が、1匹、2匹と声に出していくら数を数えても、死を望む本人は死ぬことができず、代わりに羊たちが柵を乗り越えられずに、真っ黒な血を流して死んでゆく。ぼさぼさの毛糸玉のような羊は次々に転げては破裂する。
 
 風景の描写も独特で、むごたらしい詩であるにもかかわらず幻想的で美しい。該当の連を引用する。

一匹、二匹、三匹 なんて 可哀想だけど忘れている
どんどん深くなる夜には銀色の月が出て
切れかけの電球みたいに点滅している
白黒にちらつく世界の中
羊から飛び散る黒は まるでテレビの砂嵐

 そしてこの後で「百匹数えてはふり出しに戻る」というフレーズが2回繰り返される。何百の羊を数えても終わりにたどり着けない状況が、独特で強烈な羊の描写と相まって、死を望む心象の物凄さをうまく表現している。
 さらにこの後、この人物はその場に嘔吐する。吐瀉物に混ざる薬の存在から、これが現実の人間を題材にした詩であることが分かり、作品の物凄い雰囲気が一層強調される。
 ついでにもう1つ付け加えておくと、『みにくい羊』というタイトルも、シンプルでありつつ、作品の内容にふさわしい後ろ向きな印象をうまく表していて、秀逸だ。

 テーマも描写もグロテスクだが、希死念慮を抱く人の心象を芸術的かつ臨場感をもって描写した、すぐれた詩だと思う。

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