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未来のキラキラネーム事情はこうなる by 星井七億

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あらすじ

 2085年。日本の命名文化は従来とは大きく変わり、かつてキラキラネームと呼ばれた、むちゃくちゃな名前が主流になる。伝統的な価値観を持つナースの優子は「田中ポチ夫」や「渡辺爆殺天命銀翼竜伝説太郎」などわけの分からない名前の患者が多いのにまいっていた。

レビュー(ネタばれ注意)

 キラキラネームを題材にしたコメディショートショート。作中に出て来る、わけの分からん名前のおもしろさが見どころだ。色々なタイプのキラキラネームが登場するが、いずれにしても正気でつけたとは思えないものばかりだった。

 最初に現われるキラキラネームは「田中光宙(ぴかちゅう)」だ。まずまずスタンダードなキラキラネームだと言えるだろう。ちなみに、老人である。
 次は「松本麗音菜愛梨亜(まつもと・れおなあめりあ)」。「れおなあめりあ」の部分が下の名前らしい。ジャン=ジャック・ルソーの「ジャン=ジャック」のように下の名前が2部分からできている西洋の人名をまねしていると思われ、ちょっとひねったキラキラネームだ。
 その次に現われるのが、私のおすすめ「田中ポチ夫」だ。名前の犬っぽさと「ポチ夫」という言葉の響きに笑ってしまった。むしろこれぐらい単純なのがおもしろいのかもしれない。
 その次の「佐藤幻の銀次(まぼろしのぎんじ)」もかなり好きだ。下の名前が文章になっていることと、頭の悪そうな命名センスがポイント。ヒロインの旧名「もぎたてバナナ大使」も同系統のキラキラネームだと言えるだろう。

 名前のおもしろさと小説の文脈を合わせて笑わせるパターンも登場する。特におもしろかったものをいくつか紹介したい。
 1つ目は「渡辺爆殺天命銀翼竜伝説太郎」。字だけ見ると単に長いDQNネームだが、この名前の真のおもしろさは読み方にある。「渡辺爆殺天命銀翼竜伝説太郎」と書いて「わたなべたろう」と読むのだ。
最後の二文字だけでいいだろ
 という医者のコメントが実にいい。
 2つ目は病院患者の名前「寺田救世主(メシア)」。
自分を救えよ
 という医者のコメントがここでもおもしろい。寺田さんの次に来る「村田大丈夫」さんもなかなか笑える。
「杉田クルンテープマハーナコーンアモーンラッタナコーシンマヒンタラーユッタヤーマハーディロックポップノッパラットラーチャターニーブリーロムウドムラーチャニウェートマハーサターンアモーンピマーンアワターンサティットサッカタッティヤウィッサヌカムプラシット」さんはこの小説に登場する一番長い名前だ。「渡辺爆殺天命銀翼竜伝説太郎」が霞んで見えるぐらい長い。でも、名前自体はそこまでおもしろくはない。本当に大事なのは、この名前が出て来た後の医者とナースのやりとりだ。

『長いよ、長い! 何その名前!!」

『バンコクの正式名称と同じだそうです!』

『知らないよ! もういいから続けて!』

『二人が喧嘩になって、山田頭さんが最初に割れたビール瓶で杉田クルンテープマハーナコーンアモーンラッタナコーシンマヒンタラーユッタヤーマハーディロックポップノッ……バンコクさんの腕を刺して!』

『途中で挫けんな!』

これには笑った。この小説最高のギャグだった。

 この作品では唯一気になったのは落ちの弱さだ。とはいえ、全体に十分おもしろいし決定的な欠点にはならないだろう。話の幕引きをする役割は十分に果たしている。

 話が変わるが、この小説は星井七億さんの個人サイト「ナナオクプリーズ」と「ストリエ」という小説投稿サイトに公開されている。ストリエは普通の小説サイトとは違って、掲載作品がすべてイラストと小説をミックスした形で提供される。「ナナオクプリーズ」は文字で書かれた通常のブログだ。ナナオクプリーズ」と「ストリエ」では、同じ小説である本作『未来のキラキラネーム事情はこうなる』が異なる形式で公開されているので読み比べるのが楽しい。同じ話なのに全然印象が違う。
 残念ながら「ストリエ」は2016年11月21日でサービスを終えるとのこと。URLを下に載せておくので、興味があればその日までに覗いてみてほしい。
https://storie.jp/creator/story/13875

株式会社MediBangへ運営を以降して継続することになったとのこと。

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