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ミツバチを抱いて眠る夜 by まな

ジャンル

長さ

  • 短編
  • 19,713 文字
  • 39 分ぐらいで読める

あらすじ

 中学生のルリ子は時々大きなミツバチの夢を見る。彼女は巨大なミツバチに抱え込まれて腹を刺され、どろりとした血を流すのだ。ミツバチの夢を見た日には生理がある。
 ルリ子は、自分を刺すし羽音もうるさいミツバチが嫌いだ。彼女の周りに集まる自分勝手な人間たちもミツバチと変わらない。ルリ子は悪い子になって彼らを傷つけたい欲求を抱く。

レビュー(ネタばれ注意)

 ミツバチをキーワードにして、思春期の女子中学生の心や人間関係を描いた純文学作品。ヒロインの女らしい残酷さと、日常生活に現れる人間の嫌らしさが丁寧に書かれているところがいい。

 この小説は、ヒロインの女子中学生ルリ子がミツバチの夢を見る所から始まる。夢の内容を簡単に説明すると次のようになる。真っ白な世界で途方にくれているルリ子の所に巨大なミツバチがやかましい羽音を立てて飛んで来て、6本の足でルリ子の体を抱え込む。ミツバチはルリ子の腹に針を刺してかき回し、その後針が脱落して死ぬ(※)。一方、傷ついた彼女の腹からはどろりした血が流れ出る。(※実際に、敵を刺したミツバチは針が抜け落ちて死ぬ。) 
 この夢は生理に関係するだけでなくて、男との交わりを表しているようにも思われ、思春期のルリ子はそのことに戸惑っているのかもしれない。ただし、著者がそこまで考えて書いているかどうかは本文を読んだだけでは分からなかった。
 実生活においては、彼女は自分の周りに集まる人間たちをうっとうしいミツバチになぞらえて軽蔑していている。

 このように、ミツバチを小道具として使いながら、大人になりかかっている女子中学生の心を描写するのが本作の主眼であるらしく、それに成功している。筆づかいもスタイリッシュで読んでいて気持ちがいい。

 話の本筋からはそれるが、ヒロイン、ルリ子の女性らしい残酷さがうまく描写されているところもポイントが高い。彼女は同級生や家族など、身の周りの人間たちをことごとく軽蔑し、心の中では人間に踏みつぶされるミツバチになぞらえている。彼女は実際に1匹のミツバチを指で弾いて弱らせてから足で踏んで殺している。人間たちもそのハチと変わらないのだった。口には出さないが、ルリ子は胸のうちで何度も次のような悪態をつく。

お母さんって、なんでああなのかしら。やさしくていい人のふりをして、だれかを悪者にしてばっかりいる。本当はわがままでヒステリーで子どもみたいで、いい人でもなんでもないくせに

勝手に好きになられたって、こっちは迷惑でしかないわよ

清水さんは女の子なのに、わたしを見るときはいつも大野くんと同じ目をしている。
(清水さんって、ほんとうに気もち悪い人)

次のシーンなどには、彼女の容赦のない性格がそのまま表れている。

大野くんは心臓が破裂したような顔をした。それを見ながら、わたしはどうすれば一番彼を傷つけられるか、そればかり考えていた。

 また、日常生活に現れる人間のさもしさも上手に書かれている。ルリ子が他人を軽蔑するのも、彼らの人間性を嫌っているからだ。彼女が他人を評価するシーンは数え切れないほど多いが、特にすごいのは自分に対する母の態度を考察する所だと思う。ちょっと長いが引用する。

お父さんは何もわかっていないけれど、お母さんはわたしのことを小さな子どもだと思っているわけではない。お母さんはわたしが大人になっていくのをわかってしまうから、必死に子どものままでいさせようとしているのだ。この世でお母さんほどわたしの体の成長に敏感な人はいない。
お母さんはミキちゃんと同じだ。自分が「特別」でなくなってしまうのがこわい。お母さんはずっとかわいいだけが取り柄だったから、ミキちゃんよりずっとわたしが怖い。今、お母さんはお父さんの中で自分とむすめの立場が逆になってしまうのが一番怖い。今まではわたしは「お父さんの大好きなお母さんがうんだかわいい子」だった。けれどお母さんが、「かわいくて大事なわたしをうんだお母さん」になってしまう日は、きっとそんなに遠くない。もしかしたらその日はもう来てしまっているのかもしれない。だって、もうおじいちゃんもおばあちゃんも、おかあさんに「かわいい」とか「美人だ」とかいわなくなってしまっている。その言葉も、お母さんに向けられていた愛情も、今はもうすべてわたしのためのものだから。

他にも、おためごかしの祖母や、ええかっこしいの父や、自分の好きな男子に近づくためにルリ子を利用する女子たちのあり方などを、ルリ子はずばずばと批判している。
 ルリ子の容赦のない性格と生身の人間たちのさもしさが相まって、確固たる世界観を作り上げている。女社会の嫌らしさは特に印象的だった。

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