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New World! 大阪のオバチャンが魔王になって、魔族の国家に<新世界>を作る話 by 森田季節

ジャンル

長さ

  • 短編
  • 38,241 文字
  • 1 時間 16 分ぐらいで読める

あらすじ

 魔王の26番目の子供である美貌の王女ユーフィリアには、前世の記憶によって特殊な方言を話すくせがあった。強大な力を持つために「オサカーの虎」と呼ばれ、親しみやすい人柄から多くの人望も集めていた彼女は、先代魔王の死後に勃発した戦争を制して新しい魔王となる。やはり前世の記憶を引きずるユーフィリアは、荒廃した王都を復興し、笑いのたえない街を創り上げる「新世界」計画を立ち上げた。

レビュー(ネタばれ注意)

 はじめに言っておくと、この小説には、大阪の地名や名物が分からないとついて来られない所もあるかもしれない。それから、この作品では魔王が主人公だけど戦闘シーンは多分1つしかないし、それも妖精にあめ玉をぶつけるという実にのどかなもので、派手な盛り上がりもない。だがそれでもよければ、人間的魅力にあふれる美少女魔王が活躍し、郷土愛が横溢するこの小説がすぐれた作品であることを、私が保証しよう! 大阪人以外が読んでも多分おもしろいはず。
 
 さて、本作の見所の1つは、荒廃した土地に新しい街を作り上げて発展させるという、街づくりシミュレーション的なおもしろさだろう。新魔王である美少女魔族のユーフィリアが、大阪のおばちゃんだった前世の記憶に従って戦争で荒廃した王都を復興、発展させるというのが本作のあらすじだ。ちなみに、小説のタイトルにもある「新世界」は、通天閣と串カツで有名な大阪市にある場所の名前である。

 第2の見所は大阪のローカルネタだ。本作には大阪の場所や名物をモデルにしたものが次々に出て来て、大阪を知っている人にとっては、元ネタ当てクイズを解くような楽しみがある。著者の地元愛が伝わって来るのもいい。全国的によく知られたものが元ネタになっている場合が多いので、関西人でなくてもある程度分かると思う。
 あめをちゃんづけする、もんじゃ焼きは食べた気がしないなどの小ネタもおもしろい。
 付録として、レビューの末尾に作中のネタと元ネタの対応を列挙しておくので、暇でしょうがない人は見てみてほしい。

 しかし、この小説最大の見所はヒロインであるユーフィリアの魅力だろう。彼女は魔族最強と目される強力な魔王であり、同時に他国の王が一目惚れするほどの絶世の美女である。その彼女が大阪のおばちゃんを自称し、美しい大阪弁を話すところにすぐれた個性がある。
 大阪弁話者として、私が特に美しいと思った彼女のセリフを1つ引用する。

「けど、うちは庶民派王女ってキャラで、人気が出たところあるで? そりゃ、シュッとした格好になることは簡単やけど、それやと庶民からは何をいちびってんねんって思われて、志願兵とか減るで」

 ここで自分でも言っているように、彼女は強いだけの魔王ではなく、おごらず親しみやすい人柄から人望を集めている。魔王継承戦争を制したのもそれと無関係ではない。たとえば彼女は国民にあめを配ったり、「ガオー」と言って虎の物まねをしたりする。荒地のようになった国土を復興し、「みんなが生きてておもろいと思えるような国にしたい」と述べた魔王就任時の所信表明も、ちょっと聞くといい加減なことを言っているようだが、実は彼女なりの人生哲学に裏打ちされていて、国民の喝采を受けた。

 少し長くなるが、彼女の人柄や部下との関係がよく表れているシーン1つ引用したい。まず、関東人だった前世を持つ部下のシジュクとユーフィリアが、もんじゃ焼きとお好み焼きを巡って言い争いをする。

「だいたい、なんでこれ、こんなに液体多いん? めっちゃゲ……あかん、あかん、おしとやかにしよ……。めっちゃ吐瀉物っぽいやん」
「ちょっと、それは新魔王様でも許せませんよ! 吐瀉物って最大の侮辱ですからね! すぐ、わたくしの料理、モンジャーをバカにするんですから!」

 シジュクも怒ってるらしく、尻尾がぶんぶん左右に動いていた。

「やっぱり、モンジャーやん! モンジャーは食べた気がせえへんからあかんねん。オコノミかモダンかにしてや!」

 オコノミもモダンもユーフィリアが作り方を開発した小麦粉料理である。

「そりゃ、わたくしもオコノミもモダンも作れますよ? 作り方、単純だからできますよ? でも、ユーフィリア様のそういうところがいけないんですよ。モンジャーは受け入れないじゃないですか。そのあたりが偏狭なんですよ!」

「ちゃうねん。別に受け入れんとかやなくて、モンジャーって食べた気せえへんやん。オコノミのほうが一般性あるやん……。ほんま、それだけなんやって……」

おしとやかにしよ」と言った後で、吐瀉物がどうこう言っているのがおもしろい。ともかく、ここでシジュクを怒らせたことをユーフィリアは反省し、次のように話は続く。

 ユーフィリアもシジュクが割と怒ってるので、これはまずいと思った。
 たしかに、おやつの準備までさせて、否定したのは悪かったかな……。ユーフィリアも後悔した。

 一方で、シジュクもユーフィリアに半ギレみたいになってしまい、家臣としてこれはよくないのではないか、しかも理由が料理についてとか小物臭くないだろうかと後悔していた。

 早い話が、二人とも問題を解決したいと思っていた。

「じゃ、じゃあ……うちがオコノミ作るわ……。それをシジュクと一緒に食べるっていうんで、どうかな……?」
「ユ……ユーフィリア様に作っていただけるなんて、家臣として望外の喜びです」

 どうにか落としどころが見つかって、お互い、ほっとした顔になる。

人情の機微をうまく描写した名シーンだ。
 こんな風に愉快で親しみやすいユーフィリアだが、彼女はやはり「オサカーの虎」の二つ名を持つ強大な魔王であり、それがまたかっこいい。

だいたい人間に負けるほど、うちは弱ないはずや! 【オサカーの虎】や!

のセリフなんか、なかなかクールだ。大神殿に祀られていることからして相当な実力者と思われる雷の妖精、カンクォールと戦った時も

「そうか、そうか。久しぶりに【オサカーの虎】の勇姿を見せるにはちょうどええなあ」

といい、終始余裕を持って相手を圧倒する。
 その上、串かつ屋のサクラを暴くシーンや小麦粉を人間から輸入するエピソードでは、知性や決断力も存分に発揮している。強く、賢く、美しく、おもしろいユーフィリアは、まことの魔王だと言わなければならない。

【付録:小説に登場する大阪ネタと元ネタ】

《New World、新世界》
大阪市浪速区の地名。通天閣と串カツが有名。

《ユーフィリア》
夕陽ケ丘? 新世界のもうちょっと北にある大阪市の地名。

《虎、オサカーの虎、猛虎軍団》
阪神タイガース。

《オコノミ》
お好み焼き。

《オクトパスボール》
たこ焼。

《オサカー城、魔王城》
大阪城。

《コシエーン、西の宮》
兵庫県西宮市の甲子園球場。

《深淵の神アビース、あびっさん》
恵比須、えべっさん。「あびっさん」の語感のおもしろさに笑った。

《魔族新喜劇》
吉本新喜劇。

《シジュク》
新宿?

《1ゴールドのキャベツ》
スーパー玉手の特売?

《シュッとした恰好》
スマートな恰好、の大阪弁的表現。

《モンジャー》
もんじゃ焼き。お腹のふくれない関東の食べ物。

《広い公園、動物園、美術館、博物館、巨大公衆浴場》
公園、動物園、美術館、公衆浴場は天王寺公園、天王寺動物園、大阪市立美術館、スパワールドに対応。博物館のみ分からず。

《オールスターでは虎と兎も手を結ぶ》
虎と兎はタイガースとジャイアンツのことらしい。

《空の樹》
東京スカイツリー。

《通天楼》
通天閣。

《通天楼のボス、ターワ》
通天閣のシンボルと言えばビリケン像だが、名前から判断して京都タワーのマスコット「たわわちゃん」をモデルにしたと推測。

《公園の北の邪神大聖堂》
天王寺公園の北にある四天王寺。

《淀川》
そのまま淀川。京都府と大阪府を流れる大河。

《ウメダ、キタ》
梅田。大阪駅周辺の地名。キタとも呼ばれる。

《ウメダの超巨大ダンジョン》
梅田地下街。びっくりするぐらい複雑な構造を持つ。全容を把握しようと思って、私もうろうろ歩き回ったことがあるが、1日2日で理解できるものではない。

《ポイズンバルーン》
ふぐ。大阪ではフグをてっぽう、フグ鍋をてっちり、フグの刺身をてっさと呼ぶ。道頓堀や新世界にある「づぼらや」という店のフグの看板はなぜか大阪名物になっている。

《クラブ天国》
かに道楽。

《赤鬼》
串かつだるま?

《ダルザイン》
太宰府。

《カンクォール》
菅公。学問の神であり、雷の神でもある菅原道真の尊称。

《テンマー神殿》
大阪天満宮。日本三大祭の1つである天神祭を行う神社。

《参道長大商店街》
天神橋筋商店街。日本一長い商店街。作中に解説あり。

《アヴェーノ》
阿倍野。新世界のそばにある大阪の地名。

《アヴェーノのはるかなる塔》
あべのハルカス。日本一高い(割には影が薄い?)高層ビル。阿倍野・天王寺のランドマーク。

《13》
十三。阪急電車のターミナル駅がある、大阪市北部の地名。作中に解説あり。

魔王ドルガルド、ユーフィリアの姉のリゼノア、アレンス王国、ルバニカ三世の元ネタは分からなかった。ないということもありえるけど。

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