積まれた本

ネット小説名作レビュー

能力はオッサン召喚魔法!? by 龍になれなかった鯉は仕方なく鯉のまま空を飛ぶ

ジャンル

長さ

あらすじ

 異世界に転移した14才の女の子、佐藤チカは、どういうわけか英国紳士風のオッサンを呼び出す魔法が使える。だが、現われる度にチカに余裕の流し目を送るオッサンはとても弱く、身代わりにするぐらいの役にしか立たない。1年後、紳士に加えて筋肉ムキムキのオッサンも呼び出せるようになったチカは、巨大なドラゴンのすむ洞窟を探検する。

レビュー(ネタばれ注意)

 ファンタジーの世界に転がりこんだ少女が、オッサンを呼び出す魔法を使って冒険する掌編。むっちゃおもしろかった。ファンタジー小説で魔法によって呼び出されるのは、普通精霊とか悪魔みたいなやつだが、本作では英国紳士風のシルクハットのオッサンが呼び出される。出て来る度に必ずチカに流し目を送るオッサンの態度には余裕が感じられるが、実はざこ1匹倒せないほど弱い。あまり役には立たないが、何重にも肩車をしたり、見たこともない立派な組体操をしたりして、彼らなりにがんばっているらしい。チカの身代わりになったり、化けガエルのえさになったりという受動的な方法でなら、いくらか助けにはなっているようだ。……ピクミンじゃないんだから(※)。
(※ピクミンは、一昔前のテレビゲーム『ピクミン』に登場する、引っこ抜かれて、戦って、食べられるあわれなキャラクター。) 
 1年たつと、チカはブーメランパンツをはいた色黒で筋肉ムキムキのオッサンも呼び出せるようになる。紳士たちと違って、この「筋肉」たちは強い。チカはここぞという時に筋肉たちを呼び出して敵をやっつける。はじめっから紳士なんか出さずに筋肉オッサンを出したらどうなんだと考えてしまうが、ウルトラマンが必殺技を最後までとっておくのと同じことで、深く追及するのは野暮なのだろう。

 本作のジョークのおもしろさは何と言っても、いい歳をしたオッサンたちの不可解でエキセントリックなふるまいにある。シルクハットのオッサンたちが戦闘中に組体操を始めたり、肩車を繰り返して「人間ばしご」を作ったりするところを想像すると笑わずにはいられなかった。しかも、人間ばしごは長さが足らず目的の場所まで届かない。
 1番笑ったのは次のシーンだ。ちょっと長いけど引用する。

すると、紳士達が私の横で何かをやってるのが目に入った。
1人の紳士をその手と足を掴んで大勢の紳士達が持ち上げ、ブランコみたいに揺らしている。

そして勢いがつくと、思いっきりドラゴンに向かって投げつけた。
飛んでいった紳士は華麗に回転しながらドラゴンの真上までたどり着く。

同時にドラゴンが筋肉達を吹き飛ばし、拘束から逃れた。
飛んでくる紳士を見つけると、大きく口を開いて待ち受ける。
紳士の顔が驚愕に染まる。
そして、何事もなくドラゴンの腹へと消えていった。

なんだこれ……。何がしたかった……。
そもそも飛んで行ってお前に何ができた。

残りの紳士達を見ると、全員私を見ていた。
真顔だ。

なんだよ。
何を求めているんだよ。
どうしろってんだよ。

1人のオッサンが仲間たちの協力を得て、ブランコの要領でドラゴンに向かって飛んで行く。でも、タイミングが悪くて、このオッサンは驚愕の表情を浮べつつドラゴンに飲みこまれてしまう。さらに

なんだこれ……。何がしたかった……。
そもそも飛んで行ってお前に何ができた。

というチカのつっこみがあり、最後には、なぜか残りのオッサン全員が真顔でチカを見つめている。3段構造のジョークになっていて、最高におもしろかった。

 掌編のファンタジーコメディとしては、まだまだ黒猫さんによる『27歳の私に魔法少女のオファーがきたのだが』という小説も過去にレビューしました。よかったらこちらもよろしく。

コメントする