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りんごぱんだ by 秋 ひのこ

ジャンル

長さ

  • 掌編
  • 1,992 文字
  • 4 分ぐらいで読める

あらすじ

 忙しい仕事のせいで睡眠不足に悩まされるOLのノエは、パンダが道に座り込んでりんごをかじっているのに出会う。意識がぼんやりしているのは間違いないが、パンダが見えるのはどういうわけか? 寝ても冷めても仕事のことしか考えられないような暮らしを続けていたところ、彼女はパンダから突然りんごをもらう。その次の日、ノエは辞表を提出し、学生の彼氏にも唐突な別れを告げた。

レビュー(ネタばれ注意)

 前回レビューさせていただいた『おやすみちゃんそのに』と同じく、仕事に疲れたOLと不思議な生き物のやり取りを描いた掌編小説。でもこちらは『都市伝説』をテーマに書かれていて曰く言いがたい雰囲気がある。それがいい……!!

 一言で言うと、この小説は、道端に座ってりんごを食べている謎のパンダから女性がりんごをもらう話だ。もうちょっと詳しく言うと、パンダの写真をTwitterに投稿したり、仕事を辞めたり、恋人を見捨てたりとか色々あるのだが、いずれにしても解釈が難しい。でも、色々と想像する余地があるところもこの作品のおもしろみだ。

 しかし、せっかくなので、この話が何を表しているのか考えてみた。
 ろくに寝る暇もなく働き続け、「頭の中が謎の黄色い液体でぱんぱんに膨れ上がっているような感覚がもう何ヶ月も続いている」というヒロインは、道端に奇妙なパンダを見つける。そしてある日突然そのパンダからりんごをもらう。その次の日に彼女は勤め先へ辞表を出し、同時に恋人へも別れを告げて、親の住む横浜市へ引っ込んでしまう。次にパンダからりんごをもらった時は、
「またですか。……まだ必要なんですか、私には」
 と言ってりんごをかじり、果汁の甘酸っぱさで「ぱんだと似たような顔に」になる。
 パンダのりんごが彼女にとってどういう意味を持つかが、本作の1つのポイントであるらしい。やっぱりいくつかの解釈ができそうだが、私は、パンダの持つりんごは現実逃避を表していると考えたい。仕事に疲れた彼女はぼんやりした頭で現実から逃げることを考えていて、奇怪なパンダが逃避のメタファーになっている。そして、そのりんごをもらった時に彼女はついに仕事を辞める。
 彼女はまた、りんごを食べるパンダの写真をTwitterに上げ、そのことが世間の話題になる。にもかかわらず、この小説は

ノエのツイッターのアカウントは、もう削除されている。

という文章で終わる。これは、ヒロインが現実を逃避した結果、世間から脱落してしまったことを表現していると考えられなくもない。ちなみに、私は薄気味悪い余韻を残すこの終わり方がすごく好きだ。

 小説全体としては、疲れた人間の前にパンダが現れ、そのパンダからりんごを受け取った人間は社会に戻って来られなくなる、あるいは自分自身がそのパンダのような存在になってしまう、という都市伝説を表現しているのかもしれない。
 これは憶測にすぎないわけだけれども、ともかく文字数以上に読みごたえのある小説だった。不思議な話が好きな人におすすめ。

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