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ネット小説名作レビュー

埼玉にはなぜ魅力がない? by 榊原 隼人

ジャンル

長さ

  • 短編
  • 15,286 文字
  • 31 分ぐらいで読める

あらすじ

 都道府県魅力度ランキングで埼玉県は44位だった。いくら何でも順位が低すぎる。生粋の埼玉県民である著者は、それを見かねて埼玉を称える文章を書こうとした。でも、やっぱり無理だと思って割とあっさり諦め、代わりに埼玉に魅力がない理由を考えることにした。
 「ダ埼玉」の流行語、観光地の偏り、東京との関係、朝ドラの失敗などの観点から、割と地元愛の強い著者が、埼玉県に人気が出ない原因を解明する。

レビュー(ネタばれ注意)

 生粋の埼玉県民である著者が、埼玉に魅力がない理由をテーマに執筆した、謙譲の美徳あふれるローカルエッセイ。先にレビューさせていただいた『ローカる埼玉 〜埼玉県民も知らない!? 知って得しない埼玉の初耳学〜』と同じ著者による、埼玉エッセイの第2弾。『ローカル埼玉』同様、取り上げる話題のおもしろさ、そこはかとないユーモア、正確で分かりやすい文章、そして埼玉県に対する(控えめな)郷土愛が見所になっている。埼玉ファン必読のネット小説。

 自虐ネタを含むユーモアがあり、読んでおもしろいのがこの作品の魅力だが、本作は厳密に言うと評論だ。このレビューでエッセイに分類したのは、ほかに適当なカテゴリーがないからにすぎない。専門的なことが書いてあるわけではないけども、評論というだけあって、埼玉に魅力がない理由がそかなり納得のいく形で解説されている。

 まずは埼玉に魅力がないという根拠だ。これはテレビ番組の街頭インタビューで埼玉県の魅力度ランクが47都道府県中44番目だったところにあるらしい。データの信憑性はともかく、数字で示されると説得力がある。
 地価高騰のせいで東京から埼玉に移り住んだ県民が多いことが郷土愛の弱さにつながっているという話も出て来るが、これも腑に落ちる。

 次に著者は、埼玉にはネギや煎餅などの名産品、蔵造りの街並みや埼玉古墳群といった観光地、節句人形をはじめとする工芸品があるが、いずれもパッとしないという意見を述べている。観光の目玉が古墳では、東京ディズニーリゾートを擁する千葉県のライバルにもなりえないという。これもまた納得のいく話だ。ただ、私のようにディズニーシーよりも古墳を見に行たいという人も一定するいるはずだし、自県最大の観光地に「東京」の名前をつける千葉県よりも、県の名前(読みは違うけど)を冠する古墳を観光の目玉に持って来る埼玉県の方が男らしいと思うのだが、どうだろう。鶏口牛後というやつである。
 ともかく、元々埼玉を称えるつもりだった著者はそれをあっさり諦め、どうして魅力がないかを考えることにしたのだという。潔い気はするがそれでいいのだろうか。

東京が上位なのに、その隣の埼玉が44位なんて ありえない!

とも言っているので、実は完全に諦めたわけではないのかもしれないが。

 次の章では、世の中に「埼玉をディスる風潮」があって、タレントのタモリが「ダ埼玉」という言葉を考案したことがそれに関係しているという話が書かれている。私が思うに、埼玉の不幸は「ダ埼玉」という言葉の語呂がよすぎるところにあるのだろう。ただし、埼玉には元々田舎っぽいイメージがあって、それが「ダ埼玉」という言葉がはやる下地になったともいう。ともかく、流行語が一県のイメージを左右するということも、ありえない話ではないと思った。
 それ以来、県庁は破れかぶれで埼玉のイメージアップ政策を開始したそうだ。県がイメージアップに努めるのはいいことだと思うし、是非がんばってもらいたい。

 そして、その次の章からがいよいよエッセイの肝だ。一言で言うと、埼玉に魅力がないと言われるのは、東京の影響力が強すぎるからだというのである。私もおおむねその意見に賛成した。俗に言う、キャラが立たないというやつだろう。
 ここで、東京のそばにある他の県にも同じことが言えるはずじゃないかと考える人もいると思う。東京に接するものだけ考えても、埼玉のほかに神奈川県、山梨県、千葉県がある。
 著者によると埼玉にはこれらの県にはない特殊な事情がある。東京と埼玉は元々武蔵国という同じ国であり、そのために埼玉は東京と同じ文化を共有している。言い換えれば埼玉県には独自の文化がないというのだ。私はこれもありえることだと思った。ちなみに、東京スカイツリーの高さが634メートルになっているのは、「むさし」の語呂合わせになっているという興味深いエピソードも紹介されている。
 著者はまた、東京と埼玉の関係に関して、東京と埼玉の間には主従関係があり、かつ埼玉は東京の眼中になかったということを書いている。そのあたりの話も結構おもしろい。

 後書きを除く最後の章には、埼玉県が朝ドラで失敗したエピソードが紹介されている。実はこれがすごく読みごたえがあっておもしろい。私は1つも見たことがないが、NHKの朝ドラというのは、毎回実在の地域が舞台になり、風習や文化に特色のある都道府県から先に舞台に選ばれるそうだ。つまり、特色のない地域が後に残るわけだ。
 最後から3番目だったのは福井県で、2007年にドラマの舞台になったという。私は恐竜博物館がある点で福井県を評価しているが、福島や福岡と混同されたりして、ちょっとインパクトが弱かったのかもしれない。
 最後から2番目は島根県で、2008年に『だんだん』という朝ドラの舞台になった。古代ロマンにあふれる島根県が最後から2番目とは納得いかないが、鳥取県と混同されたりもするし、やっぱりインパクトが弱かったのかもしれない。
 そして、福井県、島根県を制して1番最後になったのが埼玉だった。島根でドラマを撮った次の年に埼玉県を舞台にした『つばさ』が撮影されたということだ。最後になったのも歓迎するべきことではないが、そのドラマ出来栄えがまたひどかったらしい。埼玉県の話題性の乏しさを補うためか必要以上にやかましい演出がなされ、内容がおもしろくない上に、舞台が埼玉県である必然性も感じられなかったと著者は言う。その結果平均視聴率は過去最低を更新。
 しかし、埼玉県は私たちが思う以上に打たれ強かったようで、ドラマが大こけしたにも関わらず川越市が舞台になったことを猛アピールし、なんだかんだで『つばさ』フィーバーが起こった。その結果観光客の数も増えたという。すばらしいガッツだ。

 そういうわけで、埼玉は東京の影響が強いせいで目立たないけども、東京の都市機能を補填する縁の下の力持ちである。と著者は述べている。古い歴史を持ち日本有数の巨大都市でもある埼玉県の実力が、魅力度ランキングにも反映されることを期待している。

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