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さよなら、カクヨム by 足羽川永都(エイト)

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あらすじ

 おもしろい物語を創り出す人々の住まう楽園「カクヨム」。自分もその楽園の住人になれると思って小説を書いていた著者は、それが長い、残酷な夢であったことに気づく。書いた作品が人気になってはじめは嬉しかったのに、実力に見合わない評価を与えられることはやがて苦痛でしかなくなった。作品を削除したい気持ちが著者の胸に湧き上がる。

レビュー(ネタばれ注意)

 本作著者、足羽川永都(エイト)さんについては、以前にも『恋に落ちるコード.js』という小説をレビューさせていただいたことがある。女子高生たちがプログラミングと福井県について緩く楽しく話し合う、とてもおもしろい話だった。
 それをふまえて、著者のこの度のエッセイ『さよなら、カクヨム』を1行でレビューしてみる。

小説書くのうまいのに、なんでそんなに卑屈やねん!

――そう思った読者は私だけではないはず。では、どういう風に卑屈なのか、分かりやすい箇所をいくつか引用してみよう。

小説投稿サイトに「小説」とはとても呼べない作品を投稿し、結果的に実力に見合わない評価を集めてしまった

思い出すだけで恥ずかしい。そんな資格など初めからなかったのに。

この評価の大部分は、「コンテストの応募作品」だから入ったものなのだ。
決して、この作品そのものを評価したわけではない。
評価を強要したといっても良いかもしれない。

もう読まないでほしい。評価もしないでほしい。
ごめんなさい。
僕が浅はかでした。ごめんなさい。

消えて無くなれば良い。
すべての人の記憶から。

もはや本気なのか冗談なのか分からないほどのネガティブぶりだ。
ごめんなさい。
僕が浅はかでした。ごめんなさい。

 って誰に謝っているのか。失礼だが、おもしろくてむっちゃ笑ってしまった。

 ともかく、こうやって人間の真情というか弱音がばっちり吐露されているのが、このエッセイの1つのおもしろさだ。ええかっこをしてそれっぽいことを書いた上辺だけの文章は、読んでいたらやっぱり分かる。反対に、人が心から思ったことをつづった話ならば、それだけでそこそこ読む価値があると私は思う。本作は、文章のうまさと、極端なマイナス思考が醸し出すおもしろさのおかげで、一層読みごたえのある作品になっている。

 この作品のもう1つの見逃せないポイントは、夢を追いかける男のロマンだ。後ろ向きなことばっかり言っているかと思いきや、実はこのエッセイ、最終的には何だかんだで前向きな話なのである。
 ライトノベルにどっぷり浸かって過ごしていた10代の後半以来、ブランクはあったものの著者は小説を愛し続けているのであり、その後
自分でも物語を紡いでみたい
 と思い立って自ら小説を書き始めたエピソードや、大人になってから、憧れのブランド角川が立ち上げた小説投稿サイト「カクヨム」を見つけて胸を踊らせたエピソードが心をこめて描かれている。それから、プレッシャーに負けて「僕が浅はかでした。ごめんなさい。」みたいなことは言うものの、やはり著者はライトノベルへの情熱を失ってはおらず、今に至るまで執筆を続けているのである。これがすごくいい。若い時の夢を追い続けるストーリーが実に熱いのである。

 ところで、このエッセイの各話のタイトルは10から始まるカウントダウンになっていて『恋に落ちるコード.js』もそうだが、なかなか凝っている。このカウントダウンが0になった時に「カクヨムとさよなら」する、という趣向であるようだが、1の次は0ではなく「もうひとつの1」が来て、やっぱりもう少しカクヨムで書きつづけたい、という話で終わっている。いい感じの幕引きになってよかった。
 いじけた風なことを書いているが、著者は文章がうまい。正確な日本語で書かれたくせのない筆づかいもいいし、私もすべての作品を読んだわけではないが、少なくとも『恋に落ちるコード.js』とこのエッセイについては内容もとてもおもしろい。こんなことを書き、万一本人に読まれて負担になってしまったら私の本意ではないが、これからもばんばん執筆を進めていただきたいと思う。

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