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立てこもり by 忍者の佐藤

ジャンル

長さ

  • 掌編
  • 1,371 文字
  • 3 分ぐらいで読める

あらすじ

 ピーナッツアレルギーの人質をとってマンションに立てこもり、現金と逃走用の車を要求する犯人。警察は再三の説得を行うが、彼は出て来ようとしなかった。

レビュー(ネタばれ注意)

 不条理系の掌編コメディー。意味不明なストーリーなんだけど、その意味の分からなさと話の馬鹿馬鹿しさが実におもしろい。一応、人質をとってマンションに立てこもる犯人を警察が説得する、という筋書きはあるのだが、それもあってないようなものだ。どういう話なのか一箇所引用してみよう。

「動くんじゃねえポリ公ども!下手に動いたらこのピーナッツアレルギーの女にオニギリ食わせるぞコラ!」

犯人は人質の女性にバナナを突きつけながら叫んだ。

この2行だけで作品の奇抜さが分かる。人質にアレルゲンを押しつけるという発想がそもそもおかしい。

 ともかく、こうして警察を脅迫する犯人は
「いいから早く現金10円と逃走用のカーを用意しろ!!」
 という要求を出す。私を大笑いさせたのは、その次の警察官の行動だ。

警察の1人は自分の財布の中身を確認(かくにん)し、3ペリカしか入っていないことに苦虫を噛(か)み潰(つぶ)したような顔をする。

3ペリカ」には笑わざるをえない。どこの国のものかも分からないふざけた通貨、少なすぎる所持金、あほみたいなお金しか持っていないくせにシリアスな態度をとる警察官。円を要求されて違う通貨が出て来るのも意表を突いている。苦虫を噛み潰したような顔をする前に、もっとまともなお金を財布に入れておくべきだろう。

 それから警察は、現金を用意できなかったことをごまかすかのように
そんなところを見たらお母さんが泣くぞ。
 と言って犯人の説得を試みる。ここで
「チュワチュワバンツー」
 という犯人の本名を呼ばわりつつ登場するのが、

犯人の母親
の不倫相手の息子であるナルンムムが出会い系サイトで出会った火星人の家で飼っている牛

だ。この牛のセリフが「3ペリカ」のくだりと並んで、最高におもしろいのである。

「こんなことはもうやめて、元の銀(ぎん)行員(こういん)に戻りなさいってあなたのお母さんなら高い確率(かくりつ)で言ったと思うわ!」

母親に成り代わって説得しているのは分かるが、
高い確率(かくりつ)で言ったと思うわ!
 の部分は要らないんじゃないか。
こんなことはもうやめて、元の銀(ぎん)行員(こういん)に戻りなさい
 で切ったらダメだったのか? 真剣に説得しているとは思えない。というか、どっちにしても牛はそんなこと言わない。

 話はそれるが、以前アラクネ文庫でレビューさせていただいた『退廃革命』(午前深夜さん)も、この作品が好きな人なら高い確率で気に入ると思う。よければそちらのレビューもよろしく。

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