積まれた本

ネット小説名作レビュー

友達から聞いた、生まれる前の話。 by おこげ依存症

ジャンル

長さ

  • 掌編
  • 515 文字
  • 1 分ぐらいで読める

あらすじ

 床も壁も天上も真っ白に塗り上げられた部屋に5人の人と5つのクローゼットがあり、彼らが同時に1つずつクローゼットを開けると4つは爆発してしまう。残った1人は自分を成功者だと思い込んで空のクローゼットへ入るが、そこは暗くて窮屈な所で、しかも外へ出ることができない。そこで悟る。いずれここからは出られるが元の部屋へは戻れない。出た先にあるのは少し広いだけの牢獄なのだ。

レビュー(ネタばれ注意)

 生まれる前の記憶を書いたという体裁の抽象的な掌編小説。人工的な空間を舞台にして抽象的で暗示的な話が展開するところが私の好みにどんぴしゃだったのでレビューさせていただいた。

 冗談抜きに抽象的な小説で、せりふは一切出て来ない。作中で起こる出来事は、真っ白な部屋でクローゼットが爆発したりクローゼットに閉じ込められたりと、およそ常識からはかけ離れている。それがいい。

 本作の筋は次のようなものだ。――真っ白に塗り上げられた部屋に5人の人がいて、5つのクローゼットがある。彼らが同時に1つずつクローゼットを空けると、4つは爆発を起こして1人だけが生き残る。彼は自分を成功者だと思って1つ残ったクローゼットに入る。中に入ってみると暗くて窮屈だが閉じ込められて出られない。いずれはそこから出られることが分かっているが、出た先は少し広いだけの牢獄であることも分かっており、元の部屋に戻ることはできない。
 荒唐無稽な話だが、生まれる前の記憶を書いた話だということで、これは世に生まれる人の立場を暗示しているようでもある。つまり、はじめの白い部屋はこの世以前の世界であり、いいとか悪いとか楽しいとか辛いという概念もない。しかし、一部の人間だけが幸か不幸かクローゼットの爆発を避け、この世に生まれるチャンスを得る。最初こそ無邪気にそれがいいことだと考えているのだが、クローゼットの中に入ってみるとそこは窮屈で苦しい。さらに悪いことに、外へ出ることもできなくなってしまう。ことによるとこのクローゼットは母親の胎内を表しているのかもしれず、母の腹の中にいる時点で人がすでに生きる苦しみを感じているとも解釈できる。

いずれここからは出られる。だが、もうあの部屋には戻れない。次にクローゼットから出るならば、出た先には少し広いだけの牢獄が待っているのだと。

 というくだりは、母の胎内から外の世界に出てもろくなことはない、ということを言っているのかもしれない。だとすれば、母親の胎内に対して人間の住む世界を「少し広いだけ」と言い表しているのは憎い表現だ。

 がんばったら1分ぐらいで読める短い話なので、気になったら是非読んでみてね!(別にがんばって速く読む必要はないけど。)